鈍い音が繰り返し部屋に反響した。次いで女の啜り泣くような声。…ああ俺はまた。
ふと気が付けば、俺の右手はしっかりと握られ、左手は愛しい彼女の胸ぐらを掴みあげていた。腫れた頬は俺が、やった、のだろう。


「す、すまない…こんなつもりでは…」
「っ…ううん、真斗くんが悪いんじゃないの、わたしが悪いの…」


左手を離し、なまえを抱き抱える。俺のせいじゃない、そう言ったなまえは弱々しく微笑んだ。


「わた、わたしが悪いの…わたし、が…」
「違う…俺が、全部…!」
「ひ…っ」


そんな顔が見たい訳ではないというのに。思わず強い語調になり、なまえは体を縮こませて俺を恐る恐る見上げた。違う。俺が見たいのはこんな、こんな顔では…。


「何故だ!」
「っ、や…ごめ、んなさ…」
「違う!なまえはそんな顔はしない!お前は誰だ!」


そうだ。いつものなまえは心からの笑顔で俺を満たしてくれていた。ならばこの目の前にいるこいつは本物のなまえではない。

振り上げた拳に、なまえの笑顔がまた遠くなった気がした。




 


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