俺は何故ここにいるんだろう。一人ぽつんと立ち尽くし、ただそう考えた。


母親に通っていた高校を辞めさせられ、どこかの学校の入学試験を受けさせられた。編入ではなく、入学だ。しかも作曲もさせられ、俺は訳もわからずにただ曲を作った。母親はその曲を褒めちぎり、これなら合格も間違いないと喜んでいた。そして気が付いた時には俺は真新しい制服と荷物一式を渡されて、母親の運転する車に乗っていた。母親に言われるがままに、狭い車内でその制服に腕を通す。


「母さん、これ…どこ行くの?」
「早乙女学園よ。奏多はやっぱりお父さんの子ね、合格したのよ」
「早乙女、学園?」


母親の言った言葉に、俺は絶句した。早乙女学園と言えば、ニ百倍もの競争率を誇る、アイドルや作曲家を育てる云わば養成所のような所だ。なんで俺がそんな場所に。


「…さ、着いたわ。頑張ってね、奏多」
「え、ちょっ…待てよ母さん!」
「どうしたの、早く降りて」
「俺はこんなとこに用は…」


その先は言えなかった。というより、有無を言わさぬ母親の目に威圧されたと言った方が正しい。
そして俺は荷物を持ち、車から降ろされた。そのまま少し歩いて、馬鹿みたいにでかい門の前で立ち尽くす。
なんで俺、ここにいるんだろう。俺の横を通り過ぎていくのは、夢や希望に溢れた顔をしている奴らばかり。俺みたいに、絶望しきった顔をしている奴なんていなかった。


「…はは、馬鹿みてえ」


そう呟いて、荷物を肩に担いだ。諦めた。適当にやって、卒業出来ればそれでいい。音楽なんて、好きでもなんでもない。ただ今は母親の言う通りにしてやるだけだ。
俺は溜め息を吐いて門を潜った。






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