リクエスト小説 | ナノ


 




終わらない課題に、わたしは一人頭を抱えていた。この課題は作曲家志望の生徒が既存の曲にアレンジを加え編曲をし、パートナーがその曲を歌うというもの。
トキヤに言われた期日は今日、しかもまだ出来ていない、なんて…トキヤに知られたらどれほど怒られるか…


「うわあああ終わらないいいいい」
「何が?」
「アレンジの課題が…って、トキヤ!?」


机にへばりついたわたしの肩をちょんちょんとつついたのはトキヤだった。しかしその表情はいつものトキヤらしからぬ…どちらかと言うとHAYATOのような顔だった。


「え、え、トキヤ…?どうしたの?」
「違うよなまえっ、トキヤじゃなくて、HAYATOだよ?」
「へ?」
「それで、何が終わらないの?」


目の前のトキヤ(本人はHAYATOと言っていたけど…)はにこにことした笑顔で首を傾げた。


「えっと…課題の編曲、が…」
「そっか、それは大変だね。トキヤに怒られちゃう!」
「うっ!」
「手伝うから、一緒に頑張ろ?」
「……え?ト、トキヤ?」
「だぁかぁら、HAYATOだってば!」


HAYATOを名乗るトキヤ(めんどくさい!)はわたしを怒るどころか一緒にやろう、なんて言ってきた。これはもしや…四ノ宮くんの料理でも食べて頭がおかしくなったのでは…!
しかしそんな事を言えるはずもなく、気が付けばトキヤはわたしの隣で五線譜を覗き込んでいた。


「ここはこうより…こっちの方がいいんじゃないかにゃ?」
「え…あ、ほんとだ。しっくりくる…」
「なまえはこの曲をどうしたい?」
「どうって…そりゃあ、トキヤのよさを引き立てる曲にしたいよ」
「じゃあトキヤのよさって何?」
「それは…」


そう聞かれて、わたしは思わず押し黙った。トキヤのよさ。そんなの有りすぎて困る。でもしいてこの曲にいれるために挙げるなら。


「安定した高音とビブラート、それからリズム感」
「うんうん」
「この曲はアップテンポだから、もっとゆっくりにして半音上げる、とか」
「うん、正解!なまえはさ、ちゃんと出来る力があるんだから焦らないでゆっくりやった方がいいよ」
「でも前、遅すぎるってトキヤに言われた…」
「それは焦って完成させた物がいい訳ないからだよ、トキヤにだって練習する時間が欲しいし、プロになったら時間厳守は当たり前!トキヤもなまえに少しの時間でいい物を作れるようになって欲しいんじゃないかにゃあ」
「あ…」
「それにトキヤだって、せっかくなまえが頑張って作ってくれた曲、課題だって適当に歌いたくないはずだよ?」


そっか、トキヤはそんな風に思っていてくれたんだ…。
わたしはいつも怒られてばかりで、きっといつかトキヤに愛想尽かされちゃんと思っていた。けれどトキヤは、ちゃんとわたしの事を考えてくれていたんだ。


「ぐすっ…ありがと、トキヤ…」
「………わかればいいんです」


わたしが涙ながらにそう言うと、トキヤはHAYATOのふりをやめてわたしを抱き締めた。


「でも…言ってくれなきゃわかんない、じゃん」
「…私が普通に言えるわけないでしょう、さっきのは飴ですよ」
「飴?」
「ええ、飴と鞭の飴です。これからはびしばしいきますよ」
「ええっ?」
「一緒にデビューする為です」
「…うん、わかった」


トキヤと一緒にデビューする。その為にわたしはトキヤのどんな鞭にも耐えてみせる。もう泣いたりしないから。だから、だから一つだけお願いがあるんだ。


「たまには…、あんな風に飴が欲しいです」
「…たまに、なら、目一杯甘えさせてあげますよ」






奈壬さまリクエスト、トキヤとHAYATOで甘でした。
最初は分裂と悩みましたがこんな結果に…。トキヤって大切な子には厳しいといいなという妄想です←
リクエストありがとうございました!





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