無事、最後のおはやっほーニュースも終わって、わたしたちは一足先に楽屋へ向かった。楽屋に着くと、もらった花束をそっと机の上に置いてわたしは寝転ぶ。


「…なんですかその恰好は…はしたないですよ」
「トキ、…HAYATOくん?」
「今はトキヤでいいですよ、全く…」


そう言ってHAYATOくんの恰好をしたトキヤくんは、わたしから視線を反らした。あ、そっかわたしの衣装ってスカートだった…。


「なんかHAYATOくんのかっこでトキヤくんって、違和感あるね」
「仕方ないでしょう、これも仕事です」


そう言うと、トキヤくんは少し口角を上げた。そんな顔をするから余計にHAYATOくんには見えないのかも知れない。


「…それで?」
「なあに?」
「君まで早乙女学園を受験するなんて、聞いてませんよ」
「あ、…えっとね、色々あって、それで…」
「今日のリハで初めて聞かされました。相談くらいはして欲しかったものです」


トキヤくんはわたしの隣に腰掛けた。わたしは起き上がって少しぼさぼさになった髪に手櫛を通す。トキヤくんになら、言ってもいい、かな。


「あのね、早乙女さんが勧めてくれたの」
「…早乙女さんが?」
「うん、この前の舞台で共演した時にね」







***



それはわたしにとって大きな仕事だった。難しいけれど、やりがいがあって。舞台の公演を終えた後の充実感、そして達成感を感じていた時だった。





「流石は千鶴さんの娘さんだね」





わたしはわたしであって、お母さんとは違う。だけどわたしを見てくれる人はいなかった。皆が見てるのは、早乙女さんと並ぶ伝説のアイドル、大女優の九条千鶴だけだから。でも、早乙女さんは違った。





「お前は悩んでいるな、七光りと呼ばれながら芸能活動を続ける事に」
「ならば生まれ変わればいい」
「俺の運営している早乙女学園を受けてみろ」
「自分の実力を試してみないか」

「後はユーが決める事ネ」





早乙女さんはわたしが一番欲しかった言葉をくれたのだ。わたしの力を認め、試してみないかと。後は自分で決めればいい、そう言って早乙女さんはわたしに背を向けた。でももうその時にはわたしの心は決まっていて。


「受けます!わたし、早乙女学園を受けたいです!」


わたしのその言葉に足を止めた早乙女さんは、振り返るとにっこり笑った。







***



「…君が決めた事なら、反対はしませんよ」
「じゃあ…」
「一緒に頑張りましょう」
「うん…!」


トキヤくんは優しく微笑むと、わたしの手を握った。それは共に頑張る仲間として、そしてライバルとしてわたしとトキヤくんが交わした、初めての握手だった。








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