「お疲れさまでした」
「うん、頑張ったよ!」
「知ってますよ、今までよく頑張りましたね」
「ト、トキヤくんが優しい…!」
「どういう意味です」


受験が終わった次の日、わたしはトキヤくんと小さなレストランにいた。個室のそこで、わたしたちは静かに乾杯する。


「久しぶりのトキヤくんだ…」
「まあ久しく会っていませんでしたし当然ですが…」
「元気だった?」
「見ればわかるでしょう」
「えへへ、そうだね」


そう言うと、トキヤくんは静かに烏龍茶を一口飲んだ。わたしも手元のオレンジジュースに口をつける。


「後は結果を待つのみです。ゆっくり休んでください」
「え?」
「疲れた顔をしていますよ、そんな下手なメイクでは隠しきれません」
「…そ、そうかなあ?」


わたしがそう返すと、トキヤくんは途端にしかめっ面になった。トキヤくんがこういう顔をする時は決まって怒るか呆れるか。わたしは次にくる言葉に備えて縮こまった。


「君は本当に…」
「…」
「もっと自分の事に関心を持ちなさい」
「ごめんなさ…え、関心…?」
「そうです。だからその酷い顔に気付けない」
「そ、そんなに酷い…?」
「ええ、三割増し酷いです」
「!!」
「冗談ですよ。…ですがそう言いたくなるくらいに疲れた顔をしています」


わたしは慌てて頬っぺたに触れてみる。…確かに少し荒れているかも知れない。受験までは勉強三昧でろくに睡眠も取れなかったし、確かにそれでは体に疲労は貯まるだろう。…全く気付かなかった。


「千早、君は自分の弱さをあまり周りに見せようとしませんね」
「…そんな事」
「ないと言い切れますか?少なくとも私は、君に頼ってもらいたい」
「トキヤ、くん」
「何かあったのなら話して欲しい、頼って欲しい、君の弱さを見せて欲しい。…私がこう思うのは、迷惑ですか?」


目の前のトキヤくんは、いつになく真剣な眼差しでわたしの目を見つめる。わたしはトキヤくんがそう思っていてくれた事が嬉しくて、恥ずかしくて、思わず目線を外してしまった。


「…ううん、すごく、嬉しい」
「勿論私も、千早には私の弱い部分も含めて全て知って欲しいと思いますし、受け止めて欲しいとも思います」


トキヤくんはそう告げると、わたしの名前を呼んだ。顔を上げると、そこには優しい笑顔を浮かべたトキヤくんがいた。


「千早、私はお互いを支えあえる存在になりたい」
「…うん、わたしも、何かトキヤくんの力になりたい」
「…君はもう、十分過ぎるほど私の力になっていますよ」
「え?」
「いえ…、何でもありません」


トキヤくんの小さな呟きはわたしの耳には入らなかった。けれどトキヤくんのその笑顔を見るだけで、わたしは幸せで、これから先もこの人の力になりたいと思った。


「…さあ、話はここまでにしましょう。何を食べますか?」
「えー…えっと…」


その日わたしたちは、とても穏やかな時を過ごした。






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