ようやく学園についた後、アイドル志望のわたしと、作曲家志望の春歌ちゃんは受験する教室が違ったらしく、わたしたちはお互いに頑張ろうねと笑って別れた。


「ねえ…あれって九条千早じゃ…」
「え?…本当だ!うわあ、ここ受験するってマジだったんだあ…」
「生まれた時から芸能人のくせにね」


周りから聞こえてくるのは耳を塞ぎたくなるような言葉たち。わかってはいた、けど、それでも辛いものだなあ。なんて。教室に入ったわたしは指定された自分の席に座りノートを開いた。大丈夫、わたしにはトキヤくんも春歌ちゃんもついていてくれる。他の誰になんて言われたって、ちゃんとわたしをわかってくれる人がいるならそれでいい。
トキヤくんがわたしにそう教えてくれたんだ。今日の朝、起きた時に届いていたトキヤくんからのメール。それをそっと思い出して、わたしはこっそりと微笑んだ。


「大丈夫大丈夫、頑張れ千早…」





***


筆記試験、実技試験と長く続いた一日がようやく終わりを迎えた。やりきったよ、わたし頑張ったよ、トキヤくん。
浮かれる気持ちを抑えて、わたしは春歌ちゃんとの待ち合わせ場所にしていた校門へと向かった。


「春歌ちゃーん!」
「千早、ちゃん…」
「え、ど、どうしたの春歌ちゃん?」


校門にいた春歌ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。可愛らしい顔を歪めて、鼻の頭まで真っ赤にしながら、春歌ちゃんはわたしの胸に飛び込んでくる。


「だ、だめだったらど、どうしよ…う…」
「どうしたの?ねえ、春歌ちゃん」
「試験、あんまり出来なくて、面接も…実技、も…!」
「…大丈夫だよ、春歌ちゃん、頑張ってたもん」
「でも…」
「わたし、春歌ちゃんの曲好きだよ」
「え…?」
「大丈夫、自信持って。自分を信じて。」
「自分を、信じる」
「そう!わたし、今年が駄目だったら来年もまた挑戦するよ。出来るまでやり続ける」
「どうして、そこまでして…」
「叶えたい夢だから、だからこそ、諦めちゃ駄目なんだよ」


わたしがそう言うと、春歌ちゃんは驚いた様に目を見開いた。それから耐えきれなくなったのか、溢れ出した涙を流し、そっと微笑んだ。


「叶えたい夢だから…そう、ですよね…最初から諦めちゃ駄目ですよね…」
「そうだよ、だから自分を信じよう」
「はい…!」


そしてわたしたちはゆっくりと歩き出した。わたしはふと立ち止まると、振り返って学園を仰ぎ見る。大きな大きな、まるで早乙女さんそのものの様な学園。


「千早ちゃん?」
「…ううん、なんでもないの。帰ろ!」


わたしは春歌ちゃんの手を引いて歩き出した。








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