「君はミルクを使いました、か…」
「…………」
「…寝てる?」


よく彼女の家を訪れる私は、この家のキッチンにお気に入りの紅茶の茶葉を置いておく。それは千早も気に入っているもので、量が減っている事を確認し、また買ってこなければ。なんて思っていたのだが。当の本人が居眠りとは…いいご身分ですね…


「…千早、起きなさい」
「…う、…傾きが、a…の2乗……すぴー…」
「はあ…全く…」


少し根詰めし過ぎましたし、夢でも勉強しているようなので休憩にしましょうか。机に伏して眠る千早の眉間には皺が寄っている。ああ、痕になってしまうでしょう。私は彼女の眉間に手を伸ばし親指で撫でてやる。すると穏やかな寝顔になった。


「…くしゅっ、ぷ…」


気の抜けたようなくしゃみが聞こえたと思うと、少し冷えてきたのか、千早が身を縮込めていた。私は来ていたジャケットを脱いで肩に掛けてやり、自分の紅茶を飲んだ。最近忙しく中々会えなかったが、こうしていると心が安らぐような気がする。私は思わず微笑んでしまった。らしくもない…HAYATOでもあるまいし。緩んでしまった口角を下げ、私はルーズリーフを一枚手に取った。





***


「…ん、」
「おはようございます」


ふと意識が急上昇し、重たい目を開けると、本を読んでいるトキヤくんと目が合った。おはようございます、って…もしかしてわたし寝てた、んじゃ…


「ええそりゃあもうぐっすりと」
「う、うあああごめんなさいトキヤくん…!」
「気にしてませんから、今日の分だけでも終わらせてしまいなさい」
「うん!」


残り2ページ、頑張らないと!時計を見ると、わたしが起きていた時から短針が3周はしているように見えた。それを確認すると、わたしは慌てて問題に取り掛かった。でも頭に浮かぶのは疑問符ばかりで、どうしたらいいのかわからなくなってきた。


「ト、トキヤくん…」
「そんな情けない顔をしないでください、これをあげますから」
「これ、」


トキヤくんはわたしに1枚のルーズリーフを差し出した。それには数学で使う公式がまとめてあって、すごく見やすかった。ああきっとわたしが寝てる時に書いておいてくれたんだろう。それには細かく、ポイントや要点まで書き込まれている。


「トキヤくん、ありがとね」
「…いいから、早くやってください」
「うん、頑張る!」


それからわたしは、トキヤくんの作ってくれた公式表を参考に問題を解いていった。丸を付けてみれば、その結果はよく、わたしはトキヤくんに感謝してもしきれない。


「今日はほんとにありがとね」
「いいえ、好きでやった事ですから」
「それでも、だよ」


それからまた時間は進み、いつの間にか21時を回っていた。明日も仕事があるというトキヤくんはもう帰る事になり、わたしはトキヤくんを玄関で送ろうとしていた。勿論、借りていたジャケットはお返しして。


「こちらこそ、ご馳走様でした」
「ううん、お粗末さまでしたっ」
「では失礼しますね、明日も頑張ってください」
「うん、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみなさい」


トキヤくんを見送って、それからわたしは空を見上げる。夜空にはトキヤくんみたいな、キラキラしたお星様が空いっぱいに輝いていた。








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