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▼ ディーノ

この日は身を裂くような寒い冬の夜だった。
薄く明かりの燈った室内には二人の男女がいた。
男はキャバッローネファミリーのボスであるディーノ。
女は彼の恋人であるナマエだ。
ベッドの上でディーノがナマエ覆い被さっているが、そこには恋人同士の甘い雰囲気など一切無かった。

「どうしてなんだ……」

今にも泣き出しそうな表情のディーノの口から出た言葉には困惑や悲しみ、色々な感情が含まれている。
その様子をナマエはどこか他人事のように見ていた。
たった今、自身の破滅を招いたというのに。

「パパに言われたから」

どこか無機質な声色でナマエはディーノの問いかけに答えた。

そう、父親に言われたから。
このキャバッローネファミリーの敵対組織のボスの娘として、父親に言われた通りやったことだった。
幼い頃からずっとナマエはキャバッローネのボスを殺す為に育てられてきた。
代替わりしてボスが年若い青年になったと知ると、ナマエの父は彼の恋人となり懐柔するよう命令した。
そして油断したところで殺せ、と。
恋人として信頼を得て、ディーノと二人きりになることも許されるようになった今がその時だった。

しかし、ナマエにとって不運が重なった。
部下が居ないとへなちょこになってしまうディーノが自分の足に躓いてナマエをベッドに押し倒す形で転げ、その拍子にナマエは隠し持っていたナイフを落としてしまった。
しかもナイフの鞘には組織の紋章が施されており、それをディーノに見られたのだ。

「私のことどうするの?」

「……」

ナマエの問いかけに、ディーノはすぐに言葉を返す事が出来なかった。
ついさっきまで何の疑いも無く愛する恋人だと思っていた。
否、今でも思っている。
しかしナマエの今までの笑顔も優しさも、愛してると言った言葉さえも全ては自身を殺す為だけに行った演技だったのだ。
その事実がディーノの心を締め付けてくる。

「殺していいよ」

不意に聞こえた言葉に、ディーノは耳を疑う。

「なにを……」

「殺して、無かった事にしてもいいよ。 私のこと全部忘れていいよ」

何を言っているんだ。
そうディーノが言うより先にナマエが言葉を続けた。
それは暗殺者が言うには優しく、恋人が言うには残酷な言葉だった。
暗殺者か恋人か、ナマエ自身どちらの自分の言葉か分かっていないが、優しさから言ったのは確かだ。
なにより、これ以上ディーノの悲しそうな顔は見たくなかった。
私を殺して、そして私のことを綺麗さっぱり忘れて。
それで貴方が幸せになれるならそうして良いよ。
本気でそう思っていた。

「なあ、ナマエ」

ゆっくりとナマエを抱きしめる。
どうするのか、どうしたいのかはもうディーノの中で決まっていた。

「俺と共に生きると言ってくれ」

ナマエを抱きしめる腕に力が入る。
手放したくないと思えば思うほど、その力は強まった。

「今ここで、そう誓ってくれ」

ディーノの懇願にも似た言葉にナマエは頷くことが出来なかった。



この数日後、キャバッローネと長年敵対関係にあった組織が一つ消え去った。
ボスとその家族は全員死亡し、生き残った構成員も全員散り散りになり実質上解散。
そんな話が漸くナマエの耳に入ったのは、とうに冬が終わった後だった。

ぼんやりと窓の外を見ながらナマエは考えた。
私は家族を見捨てたのだろうか、と。

あの日、ナマエはディーノの言葉に頷く事はなかった。
しかしそれと同時に首を横に振る事もなかった。
何も選択しなかったナマエをディーノはそのまま手元に置くことにしたのだ。
何も選択しなかったから組織は滅んだのか、どちらかを選択しても同じ運命を辿ったのか。
それは今はもう分かりようもない。

「ナマエ」

「……なあに?」

「愛してるぜ」

ただ解る事は、もうナマエにはディーノしか居ないということだけだ。

「私も、愛してるよ」





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