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▼ スクアーロ

なんて楽でつまらない仕事だ、とスクアーロは一人考えていた。
ボンゴレ直属暗殺部隊として今回の任務を宛がわれ赴いたが、わざわざ自分が出てくるほどの仕事ではなかった。
ターゲットの男は懐に持った銃を出すことなくあっさりと切り刻まれることとなった。

さっさとこの場を離れるかとスクアーロが考えたその時、不意に人の気配を感じた。
振り返ると部屋の出入り口に少女が一人立っていた。

「誰だ」

スクアーロの問いに少女は答えなかった。
面倒な事になったとスクアーロは内心舌打ちする。
情報ではこの男はこの時間一人のはずだった。
愛人か情婦か、はたまた別の関係か。
目撃者は消すに限るが、その素性を確認しないまま殺せば後々厄介な事になりかねない。

「殺していいよ」

「あ?」

どうすべきかと考えるスクアーロに、少女はただ一言だけ言葉を放った。
これまでの経験上、殺さないでと命乞いされる場面は多々あったが逆の言葉を言われたのは初めてだった。
聞き間違いかと少女を睨むように見ると、少女の目に少し落胆の色が見えた。

「殺さないの? 私、その人が殺されるところ見てたんだよ?」

「……なぜ殺せと言う」

「だって貴方素敵な人なんだもの」

突拍子もない言葉にスクアーロは眉をひそめた。
死にたいのか媚びたいのかどっちかにしろ、と心の中で呟く。

「ずっとね、貴方みたいな素敵な人に殺されたかったの」

だから殺して、と続ける少女の表情は期待に満ちて恍惚としていた。
その表情を見て本心だと悟ったスクアーロは小さく舌打をし、そしてそのままツカツカと少女の前まで足を進め、その細い腕を力強く掴んだ。

「おいガキ」

「なあに?」

「そう簡単に殺してもらえると思ってんじゃねえぞ」

そう言うや否やスクアーロは少女の腕を引き、歩き出した。
勿論ヴァリアーの拠点に戻るためだ。
この少女のくだらない素性が明らかになったらベルにでも引き渡せばいい。
わざわざこの少女の望みを叶えてやる必要はない。
そんなものクソくらえだ。
しかしあの期待に満ちた恍惚とした表情を自分以外にも向けるのだろうかと考えると少しだけ、ほんの少しだけ惜しい気もした。
そんな馬鹿げた心情を誤魔化すように、スクアーロは少女の腕を掴む手に力を込めた。

しかし結論から言うと、スクアーロは少女を殺さなかった。
厳密に言うと殺す事が出来なかった。
少女がボンゴレと同盟関係にある組織のボスの娘だと判明したからだ。
数日前から行方不明となっており、五体満足の状態で保護されたと聞くと先方はヴァリアーに対し甚く感謝した。
結果としてヴァリアーの評価を上げる事となり、めでたしめでたし。
……となるはずだったが嵐はまだ去ってはいなかった。

「スクアーロさん」

「……また来やがったのか」

「だってまだ貴方に殺してもらってないもの」

にっこり笑う少女、ナマエにスクアーロは何度目かわからないため息を吐いた。
同盟組織の娘を殺すわけねえだろと何度言おうがナマエはしつこく何度もスクアーロの元を訪れた。
あまりのしつこさに本当に殺してやろうかと考えるほどだ。

「……じゃあ、殺してやろうか?」

「本当?」

スクアーロが戯れに発した嘘の言葉に、一瞬でナマエの表情が輝いた。
スクアーロの服を掴み、恍惚とした表情で彼を見上げる。
期待に満ちたその表情にスクアーロの中で名前も知らない感情がゾクリといきり立つ。
ああそうだ、その表情が見たかったんだ。
もっと見せろと言わんばかりにナマエの顎に指を添えて上を向かせ、そのままゆっくりと顔を近づけていく。
鼻先がくっつきそうな距離でぴたりと止まる。
このまま自分がどうしたいのかスクアーロ自身もわかっていなかった。

「……そう簡単に殺してもらえると思ってんじゃねえぞ、ナマエ」

耳元でいつか言った言葉を言い、そのまま離れる。
同盟組織の娘だとかは関係なく、もうスクアーロにはナマエを殺す気は無かった。
ただナマエのこの恍惚とした表情をもっと見ていたいと思うだけだ。

そんなスクアーロの心情を知らないナマエは、嘘を吐かれたと頬を膨らませながら子どもらしく怒るのだった。
 

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