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▼ 04

獄寺に「マフィアの嫁ってどーよ」発言された日から、私は獄寺に会うことはなかった。
なぜなら私はその一週間後に県外の学校へ転校したからだ。

あの日、学校から帰ると母から県外に住んでいる祖母が倒れたと知らされた。
介護の為に一人祖母の家へ引っ越すと言う母に「私も連れてって」としがみ付き、一緒に引っ越すことを決めたのだ。
残される父には悪いがこれも私の心の平穏の為だった。
そして中学を卒業後もそのまま県外の高校へ進学し、高校を卒業した年に祖母を看取ったが、その後も並盛には戻らずに県外の大学へと進んだ。
結局私が並盛へ戻ったのは大学を卒業してからだった。

さすがにもう獄寺は私の事を忘れているだろう。
転校することも告げずに町を出たし、当然連絡先も交換していない。
それに忘れていなかったとしても月日を重ねて私への想いなんか風化してるに違いない。
そもそも十代目ファミリーは雲雀さんを除いて全員並盛を出ている可能性だってある。
もう推しの姿を見ることはないんだな、と少し悲しくなってしまうが中学の時に一生分の「尊い」を貰ったから悔いは無い。

そう、思っていた。
少なくとも自分の中では獄寺との関係は完結していた。
だけど相手はそうだとは思っていなかったようだ。

「よお」

「……えっと」

新生活に向けての必需品を買いに行った帰り道、進行方向でなんか立ち止まってる人いるなと思って顔を上げたら獄寺がいた。
なにかの夢か幻かと思い自分の頬を思い切り抓るが私が痛いばかりで、目の前の獄寺は怪訝そうな顔をするだけだった。

「久しぶりだな、苗字」

「そう、だね」

推しが再び自分の前に現れ、しかも名前を忘れないでいてくれたという事実に驚愕する。
どんなドッキリだこれは。

「今日は返事をもらいにきた」

「返事……?」

「言ってただろ。 大人にならないとわからねえって」

獄寺の言葉に中学時代の記憶がフラッシュバックする。
獄寺と最後に交わした会話。
そう、例のマフィアの嫁ってどーよ発言だ。
確かそれに私は大人にならないと想像つかないとか返してた気がする。
そんな昔の話しを今になって掘り返してくるなんて誰が想像しただろうか。

「マフィアの、俺の嫁になってくれねえか」

そう言って獄寺は懐から掌サイズの小箱を取り出し開けた。
小箱の中で一粒石のリングがちょこんと鎮座しているのを見て、私の思考は混乱を極めた。
なんで指のサイズ知ってんのとか交際すっ飛ばして結婚かよとか獄寺いつまで私に恋してんの一途すぎるだろとか色々考えが巡るが、一番重要な「プロポーズ回避法」が一切浮かばない。
私なんかが獄寺のプロポーズを断るなんてあり得ない。
だけどそれと同じくらい私なんかが獄寺と結婚するなんて許せない。
私がなんと言うべきか決めあぐねていると、獄寺は再び口を開いた。

「一生大事にするって誓う」

「……っ!」

獄寺の言葉に、耐え切れなくなった私は膝から崩れ落ちた。
それはもうズシャアっと盛大に。
更には感極まって両目からブワっと涙が溢れ出てくる。
推しの口からこんな台詞を聞く日がくるだなんて思わなかったし、何より中学以来の久々の対話にこんな台詞をぶっ込んでくるなんて私のこと確実に殺しにかかってるに違いない。

「な……! おい、どうした!?」

ただひたすらに泣き続ける私を心配してか、しゃがみ込んで私の背をさすってくれる獄寺。
待ってやめて、そんなことされたら余計泣いちゃう。

「……っ」

唇が震える。
この荒ぶる心情を何か言葉にしたかった。
だけどどう言えばいいか、なにを言おうとしてるのかさえ自分でもわからない。
ただ一言、何かを言いたかった。

「好き……」

震えた唇から出た言葉は素直な気持ちだった。
推しに対して尊いと思う気持ちが形になった言葉。
この言葉は獄寺にも聞こえたらしく、私の背をさすっていた手がピタリと止まったかと思うと次の瞬間には力強く抱きしめられていた。
これはまずい、プロポーズの返事だと捉えられている。
そう思ったけれど何だかもうこの力強い抱擁に身を任せたくなり、何も知らないふりをして私はゆっくりと目を閉じるのだった。


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