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▼ 受け入れ難い存在

名前にとって仲間とは城島犬と柿本千種のことだ。
そして最も心酔して忠誠を誓うのは六道骸、ただ一人。
そんな彼女だからこそ骸と唯一繋がることが出来るクローム髑髏という存在が受け入れがたかった。

そんなある日の午後。
拠点としている黒曜ランドの一室で暇そうに漫画本を流し読みする名前の元に近づく影があった。
件の少女、クロームだ。

「名前、聞きたいことがあるの…」

「やあだ! アンタとはお話しないの、べーっだ!」

復讐者の牢獄に囚われている骸と自分達を繋ぐ唯一の存在。
今の名前達に無くてはならない存在だということは名前自身もよく理解している。
そう頭では理解しているつもりでも心の方はそう簡単に納得してくれず、今日も今日とて名前はクロームに対し突き放す言葉を吐いた。

「……」

すぐに漫画本に視線を戻そうとした名前だったが、シュンと悲しげに視線を落とすクロームが視界に入ってしまい少しの罪悪感に苛まれた。
まるで自分が完全に悪者かのように感じるため、名前はクロームのこういったか弱い小動物のような仕草が苦手だった。

「ちょ、ちょっとならお話ししてあげても良いけどぉ?」

「ほんとう?」

「ちょっと、ほんのちょーっとだからね!」

強く念を押すと、クロームは名前に駆け寄った。
先程よりも近い場所でクロームを見つめ、名前は考えた。
やっぱり骸様とは似ていないと。

髪型のせいで似ているような気がするがやはり違う。
クロームの方が小柄で華奢なのは勿論、パッチリと大きな瞳も骸とは違う。
そして骸は格好良いがクロームはかわ……。

「名前?」

「は、はあ!? なによ!」

余計な方向へ進みかけていた名前の思考がクロームの一言によって一気に現実に引き戻された。
驚きから強めの返答をする名前の内心は決して穏やかではない。
あのまま思考を続けていたら確実に危なかった。
引き返せないところまで行ってしまったかもしれない。
そんな名前の心情など当然知らないクロームは気にせず言葉を続けた。

「イタリア語の発音、教えてほしいの」

「へ、へえー、まあ良いけど?」

「ありがと、名前」

言葉と共にクロームは一歩名前に歩み寄った。
先程よりも近くなるクロームと名前。
今でさえもかなりの至近距離にも拘らずクロームは少し背伸びをし、更に名前の顔に己の顔を近づけた。
そしてそのまま頬へ近づいていく。

「へ?」

ちゅ、と可愛らしい音と共に離れていったクロームの顔を名前は呆然と見つめた。
頬にキスされたことを理解すると同時に心臓が爆発する。
これまでこんなに鼓動が強まったことはないだろう。
バクバクと煩い心臓に気をとられていると、今度はキスされた頬が熱くなり始める。

不意にクロームと名前の視線がかち合った。
しかし赤面し、うろたえる名前とは対照的にクロームの表情はいつも通り普通の表情をしていた。
別に何も感じてません、当たり前のことしましたと言わんばかりの顔。
自分はこんなに心がぐちゃぐちゃになっているというのに相手は何食わぬ顔をしているのが名前を苛立たせた。

「や、やっぱりアンタ気に食わない! べーっだ!」

捨て台詞を吐きながら走り出す。
頬を風が掠めていくが一向に熱が引く気配はなさそうだ。

やっぱりクロームは受け入れがたい。
こんなに心を乱す存在が近くに居るなんて冗談じゃない。
骸様が牢獄を出た暁には真っ先に絶交してやる。
そう心に決めながら名前は当ても無く拠点内を走り続けるのだった。


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