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▼ いたずら心

ダメもとで告白した相手は漫画家の岸辺露伴先生。
まさか告白を受け入れてくれるだなんて思ってもみなかった。
露伴先生を知る同級生は「何で露伴先生?」と首を傾げるが実は私も「何で露伴先生?」と思っている。
露伴先生といえばワガママで融通が利かなくて変人で咄嗟に浮かぶ長所なんて漫画にかける情熱くらいだ。
でも私もワガママだし融通利かないし、多分変人の類に入るだろうから案外お似合いなのかもって思ったりする。

「ろーはん先生ー」

露伴先生の名前を呼びながらインターホンを鳴らすと、数秒経って扉が開いた。
扉を開けた露伴先生は眉間に皺を寄せて少しだけ不機嫌顔だ。

「鍵は開いてるから勝手に入ってくれば良いだろ」

「でも先生、勝手に入ったら怒るでしょう?」

「怒らないよ、今更だろ」

「お〜……」

先生から勝手に入ってこいよ宣言を頂いた。
今日ってエイプリルフールだっけか、なんて馬鹿なことを考える。
だって普段の露伴先生からはツンツン全開なお言葉しか貰えないもの。

「先生、今日はクッキー買ってきたの。 お茶淹れたいからキッチン借りても良い?」

「好きにしろよ」

「はーい」

家に上がり、私専用にスリッパを履く。
パタパタと音を鳴らしながらキッチンへと足を進めると、後ろから露伴先生がついて来た。

「先生は先に部屋に行ってて良いですよ?」

そう言うと先生はまたまた不機嫌そうな顔をした。
「別にいいだろ」何て拗ねた口調で言われる。
もしかしてホントにホントに露伴先生のデレ期が来てしまったのだろうか。
そう思うとドキドキすると同時に悪戯心が沸き上がってくる。
いつも私が嘘や冗談を言うと先生は馬鹿にするような態度するけど、今ならもっと別の反応が見れそうだ。
思いついてしまったからには実行しなければ気がすまない。
紅茶を二人分淹れながら、どんな嘘を吐こうか思考を巡らせた。


紅茶を淹れた後はいつも通りソファに隣り合って座る。
いつもは私が話題を振り先生が適当に相槌を打つのだが、今日は私が黙っているから会話がない。
いつも喋りまくる私が静かなもんだから先生も気にしているようだ。

「ねーえ、先生」

「なんだよ」

数分に渡る沈黙を破る。
先生、これから嘘を吐きますからね。
絶対絶対いつもと違う反応を見せてくださいね?

「別れましょう」

「……は?」

はっはっは、どうだこの渾身の嘘は。
いつもの先生ならきっと鼻で笑うであろう嘘だ。
あれ、でもこれで本当に別れるってなったらどうしよ……。
あっ、ダメだ、先生ならやりかねない。
やっぱり撤回、 撤回しよ。

「あ、あのね先生」

「おい」

撤回しようとした言葉は先生に遮られた。
その声はかなり怒気を含んでいた。
今まで何回も先生を怒らせてきたけど、今までの比にならないくらい怒っている声だった。
ピシリと身体が固まってしまう。

「本気で言ってるのか」

強い力で腕を掴まれる。
隣り合って座っていたせいで距離が近い。
今だけは隣に座ったことを後悔している。
だって露伴先生、すっごく怒ってる。

「ろ、露伴先生…」

「何だよ、その顔。 僕が怒らないとでも思っていたのか?」

「う……」

図星を突かれて言葉に詰まる。
面白い反応が見れそうとは思ったけれど、実は怒るとは思っていなかった。

「なあ、名前」

ゆっくりと、ソファに倒される。
抵抗しようと思えば出来るのに身体は動かなかった。
さっきよりも近い場所に露伴先生の顔があって、ヤバイ状況なのに不覚にも胸が高鳴った。

「誰に心変わりしたんだ」

「へ……?」

「それ以外有り得ないだろ。 君が別れるなんて言うのは」

「お〜……」

何とも限定的だ。
もっとさ、先生の嫌味に嫌気がさしたとか先生のツンツンな態度に嫌気がさしたとかさ。
色々あると思うのよね。
怖いから口には出さないけど。

「別に言いたくないなら言わなくていいさ」

「え?」

「全部見てやるよ」

先生のその言葉を最後に私は意識を失った。




「馬鹿、アホ、低脳」

私が意識を取り戻すと同時に露伴先生から暴言が飛び出してきた。
への字口であからさまに不機嫌そうな顔をしていて、やっぱり怒らせちゃったんだなあ、と少し反省。

「冗談で別れ話をするなんて、どうかしてる」

「ごめんなさぁい……」

謝ってみたけど先生はプイ、と顔を逸らしてしまった。

「先生、怒ってる?」

「さあな」

ジ、と見つめてみるけど先生は相変わらず顔を逸らしたままで、その頬が赤く色づいている。
うーん、頬を染めるほどご機嫌斜めだなんて怒らせすぎてしまったみたい。
経験上、こういう時は少し時間を置いた方が良いのを知っている。

「今日はもう帰りますね、変な冗談言ってごめんなさい」

立ち上がると、先生が無言で私の手を掴んだ。
「どうしました?」と訊いても何も答えず無言のまま。
これは帰るなって事でいいのだろうか。
とりあえず再びソファに腰を下ろすと露伴先生はパッと手を離した。

「ねーえ、先生。 スタンドで何を見たの?」

「……」

今度は無視された。
でも絶対原因は先生が見た私のページなんだよなあ。
先生が機嫌良くなるような事でも書いてあったのか。

(あれ? もしかして……)

考えた末に私は一つの結論にたどり着いた。
普段なら有り得ないなって思うけど、今日の先生って何だかデレ期だし有り得なくはないって思えた。

「先生、もしかして照れてます?」

「!」

ぴくりと先生の肩が動いた。
あ、絶対図星だ。

「あれですか、“岸辺露伴が一番大好き”とか書いてありました?」

「……ああ、そうだよ。 でも僕は照れてもないし喜んでもないからな」

「へーえ?」

漸く先生の視線が私に向けられた。
ただし相変わらずの不機嫌顔。
こんな表情になっているのは気を抜いたら笑顔になっちゃうからじゃないかなぁ。
そう考えると先生って可愛い。

「露伴先生、好きだよ」

「……当然だろ」

あー、そこは“僕もだ”って答えるトコなのにぃ。
先生ってばホント気が利かなーい。
でもそんな所も好きだったりするから困ったものだ。
何だか嬉しくて笑ったら先生は少し怪訝な顔をした後、私につられる様に小さく笑った。


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