jojo | ナノ


▼ 嘘から始まる恋もあると思う

ピンポーンと呼び鈴を鳴らすと少し間を置いて扉が開かれた。
扉を開けた家主は私の顔を見ると、いつも「君か」とたった三文字の言葉を口に出す。
そこにどんな感情が込められてるかなんて私には分からない。
だけど追い返されないところを見る限りマイナスではない、と思う。

「露伴先生、少しお邪魔しても良いですか?」

「……勝手にしろよ」

「はい」

お言葉に甘えて玄関の扉をくぐると、いつも通りそのまま客間に通された。

「何か飲むかい」

「あ、いえ……その、大丈夫です」

急に言葉をどもらせた私に露伴先生は怪訝そうな顔をした。
何だコイツと言うような視線がチクチク肌に刺さってる気がする。
このまま逃げてしまいたいなあ、なんて考えも浮かんだけど私の小さなプライドがそれを許さなかった。

「あの、露伴先生」

「なんだよ」

「えっとね、その……好きだよ、露伴先生」

「は……?」

ぽかんと呆けた様子の露伴先生。
てっきり鼻で笑われると思っていたのに、この反応は意外だった。
そしてその顔はみるみる色付き、リンゴのように真っ赤になった。
うわあ、先生が照れている……!
すごく貴重なシーンなのに写真に収められないのが悔しい。

あ、でもね先生。
照れてるところ悪いけど、これ罰ゲームなんです。

そもそもの事の始まりは今日の昼休みだ。
友人である仗助君が露伴先生とチンチロリンをした事があると聞き、えー何それ私もやってみたーいと言ってみたら仗助君と勝負することになった。
しかし、ただ勝負するんじゃ面白くない。
じゃあ罰ゲームでもするかという流れになり、その末に提案されたのが「岸辺露伴に告白する」だった。
もちろん仗助君が負けても露伴先生に告白コースだ。
仗助君が露伴先生に告白だなんて考えただけでも爆笑ものだし、何がなんでも勝たなければと意気込んだ結果が私の惨敗である。

そんな裏事情も知らずに真っ赤になってる露伴先生は私の眼に面白く映った。
私なんかに告白されても真っ赤になるなんて先生も意外と純情ですね、ぷくく。
いつもの露伴先生は、仗助君相手ほどじゃないけど私にも憎まれ口全開だ。
だから絶対嫌味の一つや二つ、むしろ十くらい出てくるんじゃないかと思ったのに。

「先生、顔真っ赤だって自覚あります?」

「うるさい、君の眼は節穴か? 僕の顔が真っ赤だって?」

そんなわけないだろうと言いたげな態度でソッポを向かれた。
顔は真っ赤でも態度はいつも通りツンツンだ。

「先生ってもしかして私のこと好きなの?」

「な……ッ」

先生が私を見る。
不機嫌そうに見えるその表情に、怒らせてしまったかなと少し不安になった。
普段から面倒な性格してる先生は、怒らせたら更に面倒になるのだ。

どうしようかとまごついていたら不意に腕を掴まれる。
その力強さに先生がマジで怒ってることを悟った。
えっ、もしかして殴られる?
先生って女にも容赦しないタイプだっけ!?

「あっ、先生、ちょっと……」

待って、と言おうとしたら掴まれた腕を引かれ、先生の方に引き寄せられた。
あ、 これは絶対に殴られるパターンだ詰んだ。
咄嗟に来るべき痛みに耐える様に眼を強く瞑った。

「んっ」

しかし訪れたのは痛みではなく唇への柔らかな感触だった。
驚いて眼を開けると先生の顔のドアップ……えっ、ちょっ。

「うわああ!?」

事態を理解すると同時に先生を突き飛ばした。
ひょろっこいとは言え彼も男の人。
私のような小娘に突き飛ばされたところで少しヨロけた程度だった。

「ななな、何するんですかッ!?」

「何だよ、君は僕が好きなんだろ? 好き同士ならキスしたって構わないだろう」

「だめに決まってますよ!! だってあれ嘘だもん!」

「は……?」

「あっ」

うっかり嘘だって自分から白状してしまった。
遅かれ早かれ確実にバレるに決まっていたけれど最悪のタイミングでバラしてしまった気がする。
でもそれよりちょっと待って、なんか凄く聞き流してたけど先生さっき好き同士なら、とか言ってなかった……?

「おい」

「……はあい」

「僕の気持ちを弄んだのか」

「えっと、弄んだというか、まさか先生が私を好きだなんて思わなくて……」

えへ、と笑って誤魔化そうとしてみるものの怖くて視線を合わせられない。
冷や汗が止まらないし心臓の鼓動が早まっていく。

「責任取れよ」

「え?」

「僕の気持ちを弄んだ責任を取れって言ったんだ」

高くつくぞ、となんとも物騒な言い方をされてちょっと死を覚悟してしまう。
土下座して謝れば許してくれるだろうか。
しかしこの怒りっぷり、土下座程度じゃあ許されない気がする。

「ど……どうすれば良いんですか?」

情けないくらい震えた声が出てしまう。
伺うようにチラリと露伴先生を見上げると、まだほのかに頬が赤かった。
きっと怒りで顔の赤みが治らないんだ……!
もしかしたら最悪、臓器の一個くらい取られてしまうのかもしれない。
そんな事を考えながら冷や冷やと先生の次の言葉を待っていた。
焦らしているのか私の反応を楽しんでいるのか、露伴先生はたっぷりと時間を使ってから漸く口を開いた。

「……僕の恋人になれば良い。 そしたら許してやるよ」

「へっ」

聞き間違いかと疑いたくなる言葉に、なんとも間抜けな声が出た。

「言っておくけどな、君に拒否権があるなんて思うんじゃあないぞ」

そう言って露伴先生はまっすぐ私を見た。
相変わらず頬な赤く色付いている。
あの色は怒りからじゃあなくて照れているから?

(先生が私の事を好きなのは本当に本当なんだ……)

そう理解すると同時に自分の頬が熱くなるのを感じた。
先生と私、二人揃って顔を真っ赤にしてる様は側から見たら初々しいカップルに見えるのかもしれない。
そう考えると何だか笑っちゃうような、むず痒い気持ちになる。

「よろしくお願いします」

拒否権がないなら仕方ないよね、なんて自分に言い訳しながら、スルリと言葉を口に出す。
自分への言い訳はあまり効果がないことは私が一番よく理解している。
単純な私がこの一瞬で露伴先生に恋心のようなトキメキを覚えてしまったのは事実なのだから。

せいぜい僕から離れないことだな、なんて高慢ちきな言葉を吐く先生を尻目に仗助君になんて報告すべきかぼんやり考えるのだった。



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