jojo | ナノ


▼ 一線越えたお友達

私はフーゴが嫌い。
同じチームのメンバーだけど嫌い!
だってだって何だか気にくわないんだもの!
私より年下なのに私より頭良いし怒りっぽいし、そのくせ澄ましてて…。
それになんか顔見ると胸の奥がグワーってなるんだもん!
毎日アイツのこと考えちゃうのも我ながらムカつく!

ブチャラティがチーム内の険悪な雰囲気を好まないからブチャラティの前では普通にしてるけど、ブチャラティがいなけりゃ別。
他のチームのメンバーがいようとフーゴに喧嘩ふっかけるし悪態だって吐く。
だから他のメンバーは私とフーゴが喧嘩してても「ああ、またか」と呆れるようになった。

それ程までに私達は喧嘩ばかりしている。
まあ半分以上は私から突っかかってってるんだけど。
それでもフーゴだって私を見ると顔顰めるし、私達は自他共に認める険悪っぷりだ。

そう、私達は仲が悪いはず。
なのに今の状況は一体何がどうなっているの?

「ナマエ…」

熱っぽい視線が私を見下ろしている。
その視線を投げかけているのは、私の犬猿の仲のフーゴで…。
あれ?どうしてこんな事になったの?
どうして私はフーゴに押し倒されてるんだっけ?

「ん…っ」

考えていたらフーゴにキスをされた。
唇の隙間から舌を入れられる。
その時、微かにお酒の味がした。

ああ、思い出した。
今日は皆でお酒を飲んでたんだった。
ブチャラティは明日も早いからと1杯だけ飲んだら帰っていった。
アバッキオも騒がしいのは好きじゃないみたいだから早々に帰っていって…。
残ったメンバーで少しハメを外しちゃって。
私も調子に乗って結構飲んじゃって…。

そう、そのあと酔いつぶれちゃったんだ。
そしたら酔ったミスタが「フーゴに送ってもらえよ」とか言い出して。
フーゴだって断れば良いのに承諾しちゃって。
それで何故か、フーゴの家に連れてこられちゃって…。

「ッ!?」

唇が離れたかと思ったら、シャツのボタンに手を掛けられる。
ゆっくりと一個ずつ丁寧に外されていく。

「や、やだ…!ねえ、止めてよ!!」

すっかり酔いも覚めて、フーゴの肩を掴んで押し返す。
でも上手く力が入っていないのか、全然効果が無い。

「嫌です」

バッサリと私の要求は切り捨てられた。
それでも諦めずにポカポカとフーゴを叩いていたらフーゴが舌打ちをした。

「こういう時くらい、おとなしくしてられないんですか」

そう言うやいなやフーゴは自分のイチゴのネクタイを外して、それで私の両手を拘束しようとした。

「やだぁ!離せバカッ!!」

「君が悪いんですよ、暴れるから」

抵抗虚しく、私の両手はネクタイで拘束されてしまった。
フーゴを睨むがフーゴは素知らぬ顔で、再び私のシャツのボタンを外し始めた。
羞恥に耐え切れず、ギュッと目を瞑ってしまう。

「…イチゴ」

唐突にフーゴが呟いた。

「え…?」

なによ急に…。
そこまで考えて、思い出した。
今日の下着の柄を。

「や、やだぁ!!見ないでよバカ!変態!」

「変態って…何もそこまで言わなくてもいいでしょう」

呆れたようにため息を吐かれた。

「どうせ…どうせアンタも子どもっぽいとか思ってるんでしょ!?」

前の彼氏にはそう言われてフラレた。
その事を思い出したら何だか悔しくなって、じわりと涙が溢れた。

「まあ、子どもっぽいのは否定しませんよ」

「…ッ」

「でも僕は好きですよ」

そう言ってフーゴは私の胸元にキスを落とした。
やさしいキスだった。

「……なによ」

アンタ、私のこと嫌いなはずでしょ?
なんでそんなこと言うのよ。
心臓が馬鹿みたいに高鳴ってる。
何だか言葉に言い表せれない気持ちが私の胸の中に渦巻いていた。

「なんですか?」

「…別に、なんでもない」

未だに心臓は高鳴ってる。
きっとまだお酒が残ってるんだ。
だから心臓が高鳴って、体温が高くなってるんだ。
きっと全部お酒のせいだ。
このままフーゴに身を委ねても良いと思っちゃうのも、きっとお酒のせいだ。




フ、と意識が浮上した。
頭が嫌にズキズキと痛む。

「ん〜…」

何だっけ…何してたんだっけ…?
ぽやぽやした思考のまま寝返りを打ち、二度寝の体制に入る。
だけど鼻腔を擽った馴染みのある人物の匂いに、一気に意識が覚醒した。

「ふあっ!!」

ガバッと上体を起こした。
そうだよ、なんで忘れてたのよ!
昨日、フーゴと一線越えた!!!
なんてこった!

周りを見回すけどフーゴの姿はなかった。
寝室と思われるこの部屋には私しかいない。
よかった、と安心した。

それにしても…どうしてフーゴは私を抱いたんだろう。
あんなに喧嘩ばっかしてきた仲だ。
そんな相手を抱こうなんて思わないはず。
嫌がらせにしたって、フーゴはそんな事するような奴じゃないのは知ってる。
悶々と考えていたら、あることを思い出した。

それは酔いつぶれてフーゴに家まで送って行ってもらってる時。
あの時の私はお酒のせいで気が大きくなっていて、普段より饒舌だった。
その時にフーゴに何か話してた気がする。
なんだっけ…。
殆ど薄れかかった昨夜の会話を思い返した。

街頭の光だけに照らされた街を二人で歩いていた。
フラフラしてる私とは対照的に、フーゴの足取りはしっかりとした物だった。
そんなフーゴに腕を引かれながら、私はふわふわした気持ちでいた。

「ほら、ちゃんと歩いてくださいよ」

「やあだ〜、おぶってってよ」

そう言うと、フーゴは少し顔を顰めた。
鬱陶しいと言いたげな顔。

「嫌ですよ、自分で歩いてください」

「フーゴのイジワル!アンタっていっつもイジワルなんだから」

「それは貴女がいちいち突っかかってくるからでしょう」

「だあーって、ムカつくんだもん!」

「…そうですか」

いつも通りの喧嘩腰な言葉。
私がこういった言葉を吐くと、フーゴは決まって眉間にシワを寄せて目を逸らす。
私はこの時のフーゴの表情がキライ。
だってなんか、悪いことしてる気分になっちゃうんだもん。

「私より年下のくせに私より頭良いし、いっつもイジワルだし」

「……」

「なのに私、いーっつもアンタの事ばっか考えちゃって…ホント嫌になる…」

「…え?」

「だからこんなにムカつくのよぉ…」

酔ってるせいか情緒不安定になっている。
泣くような場面でもないというのに何故か涙が溢れてきた。

「貴女もしかして、ワザとそう言っているんですか?」

「え?」

「何というか…告白されているような気がするんですが」

「…なに言ってんの?」

急に真剣な表情で見つめられて、一歩後ずさった。
そんな私を逃がさないとでも言うように、フーゴは私の腕を掴む力を強めた。

「僕のことが好きなんですか?」

「そんなんじゃ…」

言いかけて、ふと思った。
確かにフーゴのことを考えると胸の中がモヤモヤしたり、色んな気持ちが綯い交ぜになっていた。
もしかしてそれは、私がフーゴのことを好きだから?
今まで嫌いだと思っていたのは好きの裏返しだったの?
そう思うとなんだか嫌いなはずのフーゴが愛おしく思えた。

「好き、なのかなぁ…」

ぽつりと呟くと、フーゴが驚いたように目を見開いた。

「ナマエ…」

「ねえ、フーゴ」

ジッとフーゴを見つめる。
正直、私はまだフーゴが好きか確信してない。
だけど手っ取り早く確かめる方法を思いついた。

「私を抱いて」

「ハア!?」

いつも冷静なくせに珍しくフーゴが驚愕の声を上げた。
その様子に少し優越感を抱く。

「ねえ抱いてよ。 抱いてくれたら好きかどうか解ると思うの」

私の言葉にフーゴは何も返さなかった。
ただ私の目をジッと見つめて沈黙を貫いている。
そして暫くして、おもむろに口を開いた。

「じゃあ僕の部屋、来ますか?」

………。

……。


「ああーーーッ!」

そうだ、思い出した!!
私が全ての原因だった!
なんてことをしてくれたんだ、あの時の私は!
というかフーゴもフーゴよ!
なんで断ってくれないのよォー!!
え、というか私ってフーゴが好きなの?
なんなの?どっちなの!?
あぐあぐと涙を堪えながら意味もなくワタワタとしていたら、不意に扉の開く音がした。

「ああ、やっぱり起きてたんですね」

扉を開けたのはフーゴだった。
一番会いたくない人物とこんな短時間で再会したくなかった!

「さっき叫び声が聞こえましたが、どうかしましたか?」

「あ…うぅ…」

フーゴが扉の方から私がいるベッドの方まで近づいてきて、後ずさってしまった。
そんな私の様子で何となく察したのか、フーゴはため息を吐いた。

「まさか君、今更になって照れているんですか」

「そ、そんなことない…」

「じゃあ、ちゃんと僕の眼を見て喋ってください」

言われた通り、視線をフーゴの方へと移した。
だけど一秒と耐えられず直ぐに逸らしてしまう。

「ほら、やっぱり照れてるんじゃあないか」

そう言ってフーゴは笑った。
それは馬鹿にしてるとか、からかってるとかじゃない。
まるで微笑ましいものを見て、つい零れてしまう優しい笑いだった。

「…なんで」

気づけばポツリと声が出た。
何でそんなに優しく笑うの、と訊きたかった。
だけどそれよりも私には気になっている事があった。

「なんで抱いたの?」

フーゴから視線を外したまま訊ねた。

「君が抱いてくれといったんでしょう」

「それでも断る事だって出来たじゃない…」

若干涙目になりながら抗議したら、フーゴは口を噤んだ。
急に黙りこくってどうしたのかとチラリとフーゴを見上げた。

「…僕だって」

「…?」

「僕だって、好きな女性に抱いてくれと言われて平常心でいられるほど理性が強いわけじゃないんです」

そう言ったフーゴの頬はイチゴのように赤くなっていた。

なんということでしょう。
犬猿の仲だと思っていた相手は実は私を好いていたなんて。
しかも私も相手のことを好いているかもしれないなんて。
今まで喧嘩ばかりしてきた日々は一体なんだというんだ。

「じゃ、じゃあまずは友達から始めましょうね」

混乱した私は、こんな馬鹿みたいな言葉しか言うことが出来なかった。


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