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▼ 次の日の朝の話

想いが通じ合ったトキメキが胸に残る夜を経て翌朝、明るい気持ちと共にナマエは眼を覚ました。
ここ最近は自分の勘違いでずっと重い気分で起床していた為、久々の清々しい朝だった。
ペパーに好きだと言われた事を思い出すと、へにゃりと顔が緩んでしまい、ナマエは慌てて頬を叩いて無理矢理表情を引き締めた。
しかし気を抜くとすぐに表情は緩んでしまっているあたり、あまり効果は無さそうだ。

久々に見る相棒の明るい表情に、ポケモン用ベッドの上で様子を伺っていたイーブイは嬉しそうに鳴き声を上げながらナマエの周りを飛び跳ね始めた。
イーブイにも沢山気を遣わせちゃったな、とナマエは申し訳なさそうに苦笑しながらイーブイを抱き上げた。

「おはよう、イーブイ」

ナマエがもふもふのイーブイの頬に頬ずりすると「ぶいっ」と鳴き声を上げながらイーブイはペロ、とナマエの頬を舐めた。

ナマエとイーブイが朝の挨拶を済ませると、ナマエのスマホロトムがメッセージの受信を知らせた。
送信者はペパーで内容は「今日部屋に行っても良い?」というものだった。
途端にナマエの顔がパアっと明るくなる。
「もちろん!」と返信し、ポスンとスマホをベッドに放るとナマエは少し赤みの増した頬を押さえながらピョコピョコと飛び跳ね始めた。

「どうしよ、イーブイ! ペパーくんが部屋に来るって!」

頭の中で太鼓の音が鳴り響くようなお祭り気分でナマエはイーブイに話しかけるが、イーブイは何のことやら解っていない様子で首を傾げた。
ただ相棒がやけに嬉しそうなので、とりあえず尻尾を振っておく。

「いつ来るんだろ……あっ、私起きたばっかりだから何もしてない!」

身支度しなきゃ、お掃除もした方がいいよね、お菓子とかジュース買ってきたほうがいいかな。
半ばこんらん状態の思考のままナマエが身支度を済ませると、イーブイは幸せそうな顔でスヤスヤと二度寝を堪能していた。
起こさないようにお掃除しなきゃな、とナマエが考えたその時、再びスマホロトムが鳴った。
ナマエは慌ててベッドに放ったままだったスマホを取り、受信したメッセージを確認した。

“今から行っても良いか?”

メッセージを確認したナマエは頬を押さえながら少し悩んだ末に「いいよ」と返信した。
イーブイの毛が抜けるので毎日小まめに掃除はしているし、お菓子は無いけど飲み物はコーヒーか紅茶なら出せる。
なによりナマエがすぐにペパーに会いたかった。
せめて換気だけしようと窓を開けると、涼やかな風がナマエの熱くなっていた頬を撫でていく。
好きな人と両想いになれて、そして部屋に遊びに来るなんて本当に夢のようだと、ナマエはペパーが到着するまでぼんやりと夢見心地のまま窓の外を眺め続けた。



コンコン、と扉をノックされる音でナマエの夢見心地な思考が一気に現実へと引き戻される。
ペパーが来たのだと思い、窓を閉めながら「はあい」と返事をすると、ナマエは玄関へと急いだ。
扉を開けると、そこには予想通りペパーが立っており、どこか気まずそうな表情をしている。

「あ……わるい、こんな朝早く」

「ううん、大丈夫だよ。 えと、いらっしゃい」

ぎこちなく言葉を交わし、ペパーを部屋に招き入れる。
先程までお祭り気分だったナマエだが、いざ実際にペパーが部屋に足を踏み入れると、なんだか凄く照れくさいようなむず痒い気持ちになりドギマギしてしまっていた。
それはペパーも同じようで、どこかソワソワと落ち着きがない。

来客用の椅子などは無いため自分はベッドに、ペパーには学習チェアに座ってもらおうと言いかけたその時――ナマエの腕をペパーが控えめに掴んだ。
驚いたナマエが眼を見開きながら「どうしたの?」と声をかけると、ペパーは言いづらそうに視線を少し彷徨わせた。

「隣、に……座りたい」

顔を真っ赤にして消え入りそうな声でペパーは懇請した。
ちょっと風が吹けば掻き消えてしまいそうなほど小さな声だったが、すぐ側に居たナマエには届いていたようで、ペパーの顔の赤みが移ったようにナマエの顔も真っ赤に染まった。

「えっと、あの……ベッド、嫌じゃなかったら……座って良い、よ?」

「……うん」

ぎこちない雰囲気のまま二人で並んでベッドに座る。
ナマエの腕を掴んでいたペパーの手はいつの間にか離れており、二人の間には微妙に距離が空いていた。

「ペパーくん、何か私に用があったんじゃないの……?」

気まずい空気を打ち払おうとナマエがペパーに問いかける。
ナマエの問い掛けにペパーは言いづらそうに「あー……」と言葉を濁した。
訊いちゃいけない事だったのかとナマエが言葉を撤回しようと口を開くと同時に、ペパーが言葉を発した。

「……笑わないでくれよ」

「う、うん」

「ナマエに好きだって言ってもらえたの、もしかしたら夢だったんじゃないかって思って……」

居ても立っても居られなくて会いたくなった、と話すペパー。
そんなペパーの言葉にナマエは少し驚いた後に顔を綻ばせたが笑わないと言った手前、慌てて表情を引き締めた。

「私もペパーくんが来るまで、同じこと考えてたよ」

ペパーを待つ間、想いが通じ合えた事が夢のようだと思っていた事をナマエが打ち明けると、ペパーは少し眼を見開いた後、安心したようにへにゃりと表情を緩めて「お揃いちゃんだな」と呟いた。



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