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▼ 04

「最近、ナマエと何かあった?」

そうまっすぐ自分を見ながら問うてくるアオイに、ペパーは何と答えるべきか悩んでいた。

ナマエに突き放されて数日、ナマエは再び登校するようになった。
しかしペパーとナマエは教室でも会話をすることはなく、廊下ですれ違っても視線すら交わすことはなくなってしまっていた。
その変化は学年の違うアオイまで気がついたらしく、今日こうして直接ペパーに問うてきたのだ。

「別に、なにも」

「うそ、だって最近二人でいるとこ見てないよ」

そう指摘されるとペパーは言葉を詰まらせた。

――もし、今ここでペパーが全て話せばきっとアオイは二人の仲を取り持とうとするだろう。
現状、ペパー一人ではもうどうしようもなくなってお手上げ状態なのだからアオイに手を貸してもらうべきだ、と頭では理解している。
しかし、何度もアオイに助けられている身としてはこれ以上アオイの手を借りるのは憚られてしまうのだ。

「……そんなことねえよ。 アオイの勘違いだろ?」

「ペパー」

尚もはぐらかそうとするペパー。
そんな彼の名をアオイは真剣な眼差しを向けながら呼んだ。
その眼差しにペパーはグッと言葉を詰まらせる。
その眼に見つめられていると、強がりにも似た気持ちがボロボロと崩れていくようだった。
次第に崩れていく強がりと共にペパーの口からスルリと言葉が零れる。

「……ナマエに、嫌われた」

一つ零れればそれを皮切りに今まであったことを洗いざらいアオイに打ち明けていた。
ナマエが好きなことも、ナマエに告白されたのに酷く傷つけてしまったことも、仲良くなれたと思ったけれど拒絶されてしまったことも――全てを話し終えるとアオイはペパーの顔をまっすぐ見つめて言った。

「大丈夫だよ、ペパー」

頼もしい笑顔を浮かべるアオイを見て、強張っていたペパーの表情が少し和らいだ。
アオイが「大丈夫」だと言うと本当にそんな気がしてくるのだ。

「ネモとボタンにも相談して良い? 二人もきっと協力してくれるよ!」

「ああ……ありがとな、アオイ」

そう言い、いつもより弱々しい笑顔を浮かべるペパーにアオイは「仲直りしたらまた皆でピクニック行こうね」と返すのだった。



「……て、わけなの」

ペパーとナマエの事で相談があると言われ、アオイの部屋に召集されたネモとボタンはアオイから事のあらましを聞き、どうすべきか頭を悩ませた。
最近ペパーとナマエが一緒にいるところを見てないな、とは思っていたがまさかそんなに拗れていたなんてというのが正直な感想だった。

「やっぱりバトルするのが一番なんじゃない?」

バトルを通じて心を通わせれば仲直りできると腕を組み神妙な顔をしながらネモい事を言い始めるネモに対してアオイが「ダメだよ、ナマエのイーブイまだ育ってないから」と斜め上の返しをし、それを見てボタンは眉間を押さえながら溜め息を吐いた。

「そもそも、なんでナマエはペパーを突き放したん?」

「ペパーも解らないって言ってた」

「うーん、それさえ解れば仲直りの切っ掛けになりそうなのにね」

原因が解らないと、外野が手を出したところで余計に拗れるだけで何も解決しないかもしれない。
それとなくナマエ本人に訊いてみるかとボタンが考えたその時、アオイがとんでもない事を口走った。

「もうペパーとナマエを同じ部屋に閉じ込めちゃったら良いんじゃないかな?」

「えっ?」

「は?」

突拍子もない言葉にネモとボタンは同時声を上げた。
眼をパチクリと瞬かせながら頭に疑問符を浮かべる二人の様子に気づいているのかいないのか、アオイはそのまま言葉を続ける。

「だってナマエ、ペパーを嫌いになったわけじゃないと思うし、無理矢理にでも二人きりで話せる機会作ったら仲直りできるんじゃないかなあ」

「いやいや、流石に無理があるでしょ」

「ぜったいれいどでペパーがひんしになっちゃうよ!」

二人に猛反対をくらい、アオイが「ダメかあ」と頬を掻く。

しかしアオイの脳裏に、いつかのナマエの様子が浮かび上がる。
「最近ペパーと仲良しだね」とアオイが言った時のナマエの顔。
顔を赤らめて恥らう仕草を見せたあの表情は恋する女の子のものだった。
告白をされた時にナマエを酷く傷つけたとペパーは言っていたけれど、きっとまだナマエはペパーの事が好きなのだと確信しているアオイは再び小さく「ダメかなあ」と呟くのだった。



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