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▼ 友人のペパーにキスされた

「えっ」と口から出そうになった言葉は唇が塞がれて不発に終わった。
近過ぎてボヤけた人の肌、唇に伝わる感触が自分の身に何が起こっているのかを嫌でも理解させた。
理解はできたけど、どうすれば良いのか分からずに恐る恐る眼の前の人物の服を小さく掴むと、漸く唇を塞いでいたものが離れていった。

「……帰ろーぜ」

さっきまで私の唇を塞いでいた人物、ペパーはどこか嬉しそうに表情を綻ばせながら手を差し出してきた。
その顔を見ていたら「なんでキスしたの」と訊く気が無くなってしまい、流されるままペパーの手に自分の手を重ねた。

――ペパーと私は恋人同士じゃない、単なる友人だ。
生徒会長が企画した学校最強大会の最初の大会が終わった辺りだっただろうか。
以前より少し人当たりの良くなったペパーに私が話し掛けたのがきっかけでよく話すようになり、二人で出かけたり毎日のように連絡を取り合ったりするほど仲の良い友人となった。
だから間違ってもキスするような間柄じゃないし、今までだって手を繋いで歩くなんてしたことがない。
なんでこんなことをするんだろうと疑問に思うのと同時に満更でもないと感じてしまう自分が恥ずかしくて、ペパーとは視線を合わせずに下を向いたまま歩いた。
ペパーもペパーでいつものお喋りな口を開くことなく黙っていて、その静かさが落ち着かない。
互いに無言のまま、だけど手は繋ぎあったまま歩き続けて、とうとう学校の前の長い階段に到着した。
ここまで来ると同じクラスの子とか友達に見られるかもしれないし、さすがに手を離そうと少し腕を引いた。

「ん、どうした?」

離れそうになった手を繋ぎ直しながらペパーは首を傾げながらこちらに視線を向けた。

「えっと……手、恥ずかしい……」

私の言葉にペパーは少し眼を瞬かせたかと思うと、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべた。
離してくれると安堵したのも束の間、ペパーは私の予想に反した言葉を吐いた。

「ヤダ、絶対離さねえ」

「えっ」

「ほら、行こーぜ。 部屋まで送る」

そう言ってペパーは私の手を引いて階段を登り始めた。
手からペパーの体温が伝わってくるせいか、身体が熱くて仕方がない。
きっと今の私の顔は真っ赤になっていることだろう。
真っ赤な顔を隠すように私は再び俯きながら歩いた。

――俯いていたからクラスメイトや友人等に見られたかどうかも解らないけれど、一応何事もなく部屋の前まで無事に辿り着き、ホッと胸を撫で下ろす。
ずっと俯いていたせいで少し首に痛みを感じながら漸く顔を上げると、運悪くペパーと眼が合ってしまった。

「へへっ、やっと顔上げたな」

眼が合うとペパーはそうやって嬉しそうに笑って、また恥ずかしくなって俯いた。
するとペパーが私の手を離し、両手で私の両頬を押さえてゆっくりと顔を上げさせた。
またペパーと眼が合う。
相変わらずペパーは笑顔を浮かべているけど、さっきの嬉しそうな笑顔とは違う――愛しい人に向けるような笑顔だった。
本当にそれは友達に対して向ける笑顔なんだろうかと考えていたら、ペパーの顔がゆっくりと近づいてきた。
「あっ」と口から出そうになった言葉が唇を塞がれてまた不発に終わった。
唇に伝わる感触。
心臓が嫌に鼓動を早めて、頭がクラクラして仕方がない。

数秒合わさっただけで唇はすぐに離れていった。
ペパーの顔が離れ、眼が合うと彼は「ちゃんと眼ぇ閉じろよ」と照れたように笑うから、思わず「ごめん」と口にした。

「じゃ、また明日な」

「あ、うん……また明日」

挨拶を交わし、自室の方へ歩いていくペパーの背中を私はただぼんやりと見つめた。
――訊けなかった。
なんでキスをしたのかと訊くことが出来なかった。
時間差でドキドキと心臓が早鐘を打ち始め、頬に熱が集まる。
嫌じゃなかった――むしろ嬉しかった。
キスされて初めて私は自分がペパーに恋心を抱いていたことに気づいた。
だからこそ、なんでキスをしたのか問うのが怖い。
パルデア出身ではない私はこの地方の文化や風習など全く知らない。
もしもパルデアでは友人同士でも唇にキスをするのは当たり前なんだとしたら、私はもうペパーと友人関係を続けられる自信がなかった。

「なんでキスしたの……?」

ペパーに訊けなかった言葉は彼の姿が見えなくなった途端にスルリと口から出てきた。
答えの返ってこない問いかけにため息を吐いて、私は今だに早鐘を打つ心臓を落ち着かせてから自室へと入った。



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