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▼ マリィの年上の恋人

チラリと隣へと視線を移すと、隣にいる少女は窓からの景色をぼんやりと眺めていた。
そらとぶタクシーの車内は狭く、少し手を伸ばせば彼女の小さな手に届いてしまう距離感だ。
こんなに近くにいるのに私よりも窓からの景色に目をやっているのが何だか面白くなくて、少女の手をするりと撫でるように触ると、その猫のように釣り上がった大きな瞳が漸くこちらに向けられた。
「なに」と二文字だけ口に出し、無表情でジッとこちらを見る様はどこか不機嫌そうにも思えるが、本当に不機嫌な時は返事すらしてくれないのを私は知っている。
彼女が怒っていない事をいいことに、更にくすぐるように手に触れたり、指を絡めてみたりと遊んでいたら、とうとう手を振り払われてしまった。

「ごめんね、イヤだった?」

謝ると彼女は不機嫌そうにムッと口を尖らせ、拗ねた声で「イヤじゃない」と言った。
イヤじゃないのならともう一度触れようとすると、マリィは守るように手を胸元へと引き寄せてしまった。

「くすぐったいけん、もうやめて!」

「あら、やめていいの?」

頬だけでなく耳まで真っ赤にする彼女が可愛くて、ついイジワルを言ってみたくなってしまう。

「ねえ、マリィ」

悪戯に彼女の耳元へ唇を寄せて囁くように名を呼ぶと、分かりやすくピクリと肩を揺らす彼女が可愛くて笑みが浮かんだ。

彼女、マリィと私は恋人同士だ。
私の方がいくらか年上で女同士ではあるけれど、ちゃんと彼女の保護者であるネズの承諾も得ている歴とした恋人だ。

「……イジワル」

相変わらず不機嫌そうに唇を尖らせながら、マリィは私の手にソッと自身の手を重ねた。
ヒヤリとした冷たい体温すら愛おしいと思う私は末期かもしれない。

「マリィばっかドキドキしとるの、ズルイ」

熱っぽい視線を向けるマリィの顔がゆっくりと近づいてくる。
マリィが何をしようとしているのかはすぐに解った。
その淡く色付いた唇で私の口を塞ごうとするのだろう。

「ダメよ、マリィ」

残り数センチ、というところでストップをかけ、空いている左手で自分の口をガードした。
するとマリィはキッと鋭い視線を私に投げかけると、やけくそ気味に私の左手にキスするとフイと離れてしまった。

「意気地なし」

ぽつりと呟かれた言葉に私は曖昧に笑みを浮かべるしかなかった。

――ネズにマリィとの交際を認めてもらう際に、条件を出された。
それはマリィが成人するまではスキンシップは頬へのキスまで、そして周囲に恋人同士だと悟られないようにするというものだ。

新たにスパイクタウンのジムリーダーとなったマリィは話題性があるだろう。
そんな彼女が今、成人女性と交際しているなどと知れれば良い結果にはならないのは目に見えている。
そしてそれは私にとってもだ。
未成年の少女に手を出したハレンチOLとか記事に書かれるだろう。
ネズはマリィと私を守るためにマリィが精神的にも強く、そして自分の行動に責任を持てる年齢になるまで一線を越えさせないよう私に約束させた。
だからマリィが一線を越えようとしたら年上として止めさせるし、間違っても自分が一線を超えないよう自制してきた。

――だけど、何もせずにはいられない。
恋人とは名ばかりの友達の延長線のようなこの関係にマリィが飽きてしまったら、他の同世代の子に目移りしてしまったらなどといつも考えてしまう。
だから一線を超えない範囲でマリィに触れ、いたずらにマリィの心を乱し、私と言う存在がマリィの中に根強く残るように行動してきた。

私がまともな大人だったらマリィが成人してから交際しただろう。
だけど耐えられなかった。
私が律儀に待っている間に他の誰かがマリィの心を掻っ攫うのを見ているなんて私には無理だった。

「ごめんね、マリィ」

私みたいな大人に捕まって可哀想なマリィ。
でもどうかこの先も私の事だけを好きでいてね。



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