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▼ 初デートの話2

沢山お喋りして、ボールでサッカー遊びをする相棒ポケモン達を見て、そして時々投げて欲しいとイーブイに催促されてはボールを投げて。
そうやってたっぷり時間を掛けていたら、二人がランチを食べきる頃には相棒ポケモン達は遊びつかれて気持ち良さそうに寝息を立てていた。

「ふふっ、遊び疲れちゃったんだね」

「だな」

微笑ましそうにポケモン達を見て互いに笑みを交わしていると、遠くの空からゴロゴロと雷の音が聞こえ、二人は同時に空を見上げた。
快晴だった空は少しずつ灰色の雲に侵食され、暫くしたら雨が降りそうだと容易に想像できた。

「雨降りそうだな……」

「うん……」

残念そうにポツリと呟いたペパーにナマエも沈んだ声で返事を返す。
今日はもうお開きになってしまうだろうかとナマエが考えていると、ペパーの手が控え目にナマエの袖をクイ、と引いた。

「どっか寄ってから帰らねえ?」

「えっ?」

「もうちょい一緒にいたい……ダメか?」

願ってもない申し出にナマエが思わず即座に「ダメじゃない」と言うと、ペパーは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「どこ行こっか?」

「雨降りそうだしどっか屋内……」

考え込むペパーの言葉にナマエの頭に一つの提案が浮かぶ。
受け入れてもらえるか解らない提案に少し口にするのを躊躇ったが、それでもやっぱり行きたいとナマエは口を開いた。

「ペパーくんのお部屋、行っちゃダメかな……?」

ナマエの言葉にペパーがすぐに「いいぜ」と快諾するとナマエはパァッと表情を輝かせた。
ペパーがナマエの部屋に来たことはあったが、ナマエは一度もペパーの部屋に行ったことはなく、ずっと遊びに行きたいと思っていた。
そんなささやかなお願いが叶い、ナマエは満面の笑みでペパーに「ありがとう」と伝えた。

「じゃ、チャチャッと片付けちゃおうぜ」

「うん!」

寝ている相棒達はボールに入れ、テキパキとピクニックの片付けを済ませた頃には先程よりも灰色の雲が広がっており、二人は少し急ぎ足で帰路を歩いた。
しかし運悪くテーブルシティに着いた途端に雨に降られ、結局学校のエントランスに辿り着く頃には二人とも雨でびしょ濡れとなってしまっていた。

「結構濡れちゃったね」

雨で顔に張り付いてしまった髪を拭いながらナマエは困ったように笑った。
ペパーが鬱陶しそうに髪を除けながら頷くのを見ながら、ナマエは言葉を続けた。

「シャワー浴びてからペパーくんのお部屋に行くね」

「えっ、あ……ああ、待ってる」

「ペパーくんも体冷やさないようにね」

そう言って小走りで自室へ向かって行くナマエを見ながらペパーは少しだけ、部屋に招き入れるのは失敗だったかもしれないと一人後悔していた。
神に誓ってやましいことなどしないし、シャワーを浴びてから来るのだって雨に打たれたからで他意はない。
だけど可愛い恋人にシャワーを浴びてから部屋に行くねなんて言われたらどうしても考えてしまうことがあるのだ。
ペパーは深く溜息を吐いてから重い足取りで自室へと向かった。



ペパーの部屋の扉がノックされたのは、ペパーがシャワーを浴び終えてから暫く経った頃だった。
きっとナマエだろうと扉を開けると、予想通りそこに立っていたのはナマエだったのだが、ペパーは思わず息を呑んでしまった。

「ごめんね、少し時間かかっちゃって……」

そう申し訳なさそうに眉を下げるナマエの言葉にペパーは心ここに在らずと言った様子で気の抜けたような返事しか出来なかった。

理由はナマエの服装だ。
先程まではピクニックに行くということもありカジュアルな動きやすいジーンズを着用していたナマエだったが、今は控えめなレースがあしらわれたワンピースを着用している。
普段も制服姿ばかりでスカートやワンピースを着用しているところは見たことがなく、ペパーがナマエのワンピース姿を見たのは今日が初めてだった。
正直に言って、見惚れていた。

「ペパーくん?」

名前を呼ばれて漸く我に返ったペパーは「なんでもない」と言いながらナマエを部屋は招き入れた。
「おじゃまします」とはにかみながら言うナマエにもぎこちない返事しか出来ず、ペパーは嫌に煩い心臓の鼓動を落ち着かせようと胸を押さえた。

しかし、ふとペパーは気付いた。
ナマエの部屋に行った時もそうだったが、ペパーの部屋にも来客用の椅子がない、と。
なんで部屋に入れるまで気付かなかったんだと自分を叱咤するが、もうどうしようもない。
ナマエには学習チェアに座ってもらおうとペパーが口を開きかけたその時、一歩後ろにいたナマエがペパーの服を控えめに引いた。
ペパーが振り返るとナマエは少し恥じらう様子を見せながら口を開いた。

「隣に座っても良い……?」

それはナマエの部屋に行った時にペパーが言った言葉と同じものだった。
あの時のナマエはペパーの言葉を受け入れてくれた。
それなのに自分が今ナマエを突き放すわけにはいかず、ペパーは声を絞り出すように「いいよ」と口にした。

「ふふっ、なんだかこの間とは逆だね」

そう言って笑いながらナマエがベッドに腰掛けると、ワンピースの裾がフワリと揺れた。
つい裾の動きを眼で追ってしまい、ペパーは自己嫌悪に陥りそうになりながらナマエとは少し間隔を空けてベッドに座った。

この間は現実味がなくて気にも留めていなかった。
好きな子とベッドに並んで座るのがこんなにもドキドキするだなんて思わなかった。
どうしようもなく“いけない事”をしているような気分になってペパーが黙り込んでいると、ナマエが心配そうにペパーの名を呼んだ。
一歩、ナマエがペパーの方へと体を寄せる。
その拍子にペパーとナマエの指先が触れ合った。
その瞬間、再びペパーの心臓がドクンと強く脈打った。
触れ合った指先からじわじわと熱が伝わり、やがてそれは全身に広がる。
熱に浮かされ、ぼんやりとした思考のままペパーは思った。
もっと触れたい――と。
頬に触れて、瞳を見つめて、キスしてしまいたい。
――でもその後は?
残されていた理性が問いかけてくる。
一度で満足できるのか。
キスだけで、抑えられるのか。

(……無理だ)

そう自覚したペパーは理性を総動員させて欲望を自身の奥底に押し込んだ。

「大丈夫?」

心配そうな表情を浮かべるナマエを安心させるように笑顔を浮かべながら「なんでもない」と返した。

「その服、似合ってるなって思ってさ」

「えっ」

突然の褒め言葉にナマエがキョトンと眼を瞬かせた。
しかし次第にその表情はへにゃりと柔らかな笑顔へと変わり、照れたように頬を手で押さえながら「ありがとう」と告げるナマエを見て、ペパーはホッと息を吐いた。

これで良い、これが正解だ。
タガが外れて歯止めが効かなくなったら、きっと取り返しのつかないことになる。
ナマエに嫌われてしまうくらいなら、彼女に触れるのを我慢する方がマシだ。
自身の欲望に蓋をして何食わぬ顔で世間話に興じながら、ペパーは強くそう思った。



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