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▼ 初デートの話1

それはお互いの気持ちが通じ合った数日後のランチタイムでの事だった。
ペパーお手製のサンドウィッチを食べながら、和やかに言葉を交わす二人の横で、お腹いっぱいになった相棒ポケモンたちが気持ちよさそうに食後のお昼寝を満喫している。
その和やかな雰囲気に包まれつつ、ペパーが少し言いづらそうな面持ちで言葉を発した。

「なあ、ナマエ」

「なあに?」

「……明日、ピクニックに行かないか?」

言いづらそうな表情とは裏腹に、その言葉は至って平和で魅力的な提案だった。
ナマエはパァッと表情を輝かせ、嬉しそうに快諾した。

「じゃあアオイちゃん達も……」

誘おう、とナマエが言い終わる前にペパーが慌てて静止する。
首を傾げるナマエから視線を逸らしながら、ペパーは益々言いづらそうに口をまごつかせながら言葉を続けた。

「デート……だから、二人だけで行こう」

尻すぼみとなっていく声だったが隣に居るナマエにはしっかりと聞き取れており、ナマエは驚いたように少し眼を見開いた。
それは初めてのデートのお誘いだった。
微かに頬が熱くなるのを感じながらナマエは慌てて口を開いた。

「う、うん! 行こっか!」

ほのかに色づいた頬を隠すように押さえながら頷くナマエを見て、ペパーは安心したように微笑んだ。



そうして迎えた翌日のデートの日、早々と支度を終えたナマエはペパーが迎えに来るのを今か今かと落ち着きのない様子で待っていた。
そのうち、扉をノックする音とナマエを呼ぶペパーの声が聞こえ、ナマエは慌てて扉を開けた。

「お、おはよう」

「おう、おはよ」

挨拶を交わして眼が合うと、どちらともなく力が抜けたように笑顔を浮かべた。



ピクニックという事もあり互いにカジュアルな格好ではあるが、初めて見る互いの私服姿にどこか気持ちが高揚するようだった。
しかしやはり慣れない姿に緊張してしまい、並んで歩きながらも少しのぎこちなさが漂っていた。
それは目的地の東一番エリアに到着してからも続き、よそよそしい空気の中、ピクニックの準備に取り掛かった。

今日は二人だけだからと、ピクニックテーブルではなくレジャーシートを敷き、二人で並んで座る。
並んで座るといつもの学校でのランチの時間のようで、初デートという特別なイベントで緊張していたナマエの気持ちをいくらか軽くさせた。

「あれ? 今日はマフィティフは?」

ボールからマフィティフを出す様子のないペパーを見て、ナマエは不思議そうに訊ねた。
いつものランチの時間なら真っ先にマフィティフをボールから出すのに、とナマエが首を傾げるとペパーは少し唇を尖らせながら、どこかぶっきらぼうな様子で口を開いた。

「……だって今日、デートじゃん」

「えっ、あ……そう、だね」

ペパーの言葉に、ナマエの中で緩んでいた緊張の糸が再び張り詰める。
そうだ、デートだから二人きりなのは当然だとナマエはイーブイのボールに伸ばしかけていた手を慌てて引っ込め、少し顔を赤らめながら俯いた。
ペパーもペパーで改めて自分で“デート”だと口にして意識してしまっているのか、ナマエから視線を逸らして、意味もなく野生ポケモンを眼で追っている。
どこか気まずい雰囲気に呑まれ始めたのを感じ、ナマエは少し遠慮気味に口を開いた。

「……ペパーくん」

「ん、どうした?」

「あのね、クッキー焼いてきたからこれも一緒に食べてくれる……?」

ペパーがサンドウィッチを作ってきてくれると聞いていたからそれとは違う、簡単に食べれるお菓子をと思い作ってきたクッキーだ。
せっかくだからと数枚ずつ袋に詰めてラッピングまでした自信作。
ナマエが小さなバスケットの蓋を開いて自信作のクッキーを見せると、ペパーはパァッと表情を輝かせた。

「美味そうだな! ほら、マフィティフも……」

ピタリとペパーの言葉が止まる。
デートだから二人きりで、と自分から言ったのに、当たり前のようにマフィティフにも声を掛けようとしてしまってペパーは気まずそうに視線を逸らした。
そんなペパーの様子にナマエは小さく笑みをこぼした。

「ね、ペパーくん。 マフィティフにもクッキー食べてほしいな」

「でもさ……」

「その代わり、イーブイにもサンドウィッチあげても良い?」

再びペパーの視線がナマエへと向く。
何か言おうとペパーは口を開いたが、ナマエの穏やかな笑みを見ていたら何も言葉が出てこず、ただ少し照れくさそうに「ありがとな」と口にした。

互いにボールから相棒ポケモンを出すと、ボールの中からもクッキーやサンドウィッチと言う言葉が聞こえていたのか、マフィティフとイーブイはワクワクとした様子で眼を輝かせていた。

「待ちきれないって感じだな」

「ふふっ、本当だね」

また二人は顔を見合わせて笑い合い、ポケモン用の皿にサンドウィッチとクッキーを乗せてやる。
今日は二人きりでと言っていたペパーもいつもの癖だろうか、しっかりとマフィティフ用のお皿を持参していたことにナマエは笑みを浮かべた。

「私達も食べよっか」

「ああ」

嬉しそうにモリモリとサンドウィッチをクッキーを食べる相棒達を見ながら、二人もサンドウィッチに手を伸ばす。
一口食べた途端にナマエが表情を輝かせると、その様子を見ていたペパーは顔を綻ばせた。
学校のランチの時間にも互いのサンドウィッチを交換することがあるが、ペパーが作ったサンドウィッチを食べると必ず表情を輝かせる、そんなナマエの顔を見るのがペパーは好きだった。

「ん、どうしたの?」

あまりに見過ぎていたせいか、視線に気付いたナマエが不思議そうにペパーを見ると、慌ててペパーは「なんでもない」と言い、自分もサンドウィッチに齧り付いた。

早々に食べ終わったマフィティフとイーブイが追いかけっこを始める。
そよ風が靡き、少し離れた場所からは野生ポケモンの鳴き声が聞こえる場所でのピクニックは、穏やかな休日そのものだ。
だけど――と、ペパーの頭に考えがよぎる。

(初デートって感じじゃねえよなあ……やっぱ)

少し足を伸ばせばハッコウシティがある。
飲食店も豊富で、夜になれば灯台から夜景を一望できるデートスポットがあるにも関わらずペパーが初デートにピクニックを選択したのは勇気がなかったからだ。
初デートだから格好つけたいーーという気持ちはあるのだが、いざデートらしい場所へ行くとなると嫌に緊張してしまいそうで、ナマエの前で格好悪いところを見せしまうんじゃないかと気後れしてしまったのだ。
ピクニックなら慣れているし、自信作のサンドウィッチを振る舞えるしで言うことない。
だけどデート感は……きっと薄い。

「ペパーくん?」

サンドウィッチを一口齧っただけで食が進んでない様子のペパーに再びナマエが声をかける。
ペパーの視線がナマエへと向く。
ペパーの表情が何か言いたげに見え、ナマエは「どうかしたの?」と優しく問いかけた。
ナマエに促され、ペパーの口がゆっくりと開く。

「その……ホントにピクニックで良かったのかって思ってさ、初めてのデートなのに……」

「え?」

「ほら、近くにハッコウシティもあって夜景とか見れるのにピクニックとか……嫌じゃねーの?」

どこか卑屈な物言いになってしまい、ペパーは気まずさから視線を逸らした。
そんなペパーの様子にナマエはパチクリと眼を瞬かせる。

「そんなこと考えもしなかった」

思わず口から出た言葉はナマエの本心だった。
ペパーからデートに誘ってもらえて、こうして穏やかな時間を共に過ごせるだけでナマエにとって特別な出来事なのだ。
そうナマエが伝えると、ペパーは再びナマエへと視線を向けた。
眉を下げた顔はどこか落ち込んでいるように見えたが、しかし真っ赤に染まった頬を見ると照れているだけだというのが見て取れた。

「ペパーくんはどう? 初めてのデートがピクニックはイヤ?」

「……ヤじゃない」

「ふふっ、私も!」

ナマエにつられるようにペパーが笑うと、何やら楽しそうな相棒達の様子に気づいたのかマフィティフとイーブイが追いかけっこを辞めて二人の元へ戻ってきた。
自分達も混ぜて、と言うかのようにイーブイが前足でチョイチョイとナマエの足に触れると、ナマエは鞄からイーブイのお気に入りのボールを取り出した。

「イーブイ、マフィティフ! いくよ!」

ナマエがボールを投げるとイーブイとマフィティフが追いかけていく。
その様子を見届けると、ナマエはそっとペパーの耳に唇を寄せた。

「今度夜景も観に行こうね。 イーブイ達には内緒で」

内緒話をするように声を顰めながら言うと、ナマエは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

「……ん、約束な」

急に耳元で喋られて益々赤くなった頬に手を当てながらペパーが答えると、二人はすっかり後回しにしてしまった食事を再開するのだった。



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