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▼ オマケ

「絶対そうだって」

「でも分からんで? 仲良いだけかもしれんやん」

部活終わり――部室で着替えながら角名と治は声を潜め、休憩中に見た光景について談義を交わしていた。
キャプテンであり、ミスター隙なしと名高い北信介が休憩中に女子生徒と笑顔で談笑していたのを目撃した二人は“もしかして北さんの彼女なのでは”疑惑を浮上させていた。
しかも相手が自分達と同じクラスの女子。
二人の好奇心は高まるばかりだった。

「二人して何コソコソ話とるん?」

近くで着替えていた銀島が不思議そうに会話に入ってくる。
角名が「実は」と休憩中にあった出来事と“北さんの彼女疑惑”について話すと、少し離れた場所で帰り支度をしていた侑が「北さんに彼女?!」と大声を上げた。

「ちょお何でそんなおもろい話俺に教えんのや!?」

「うっさ」

ギャイギャイと騒ぎ立てる侑に治が顔をしかめる。
いつもならそこから双子の言い合いに発展するのだが、今は侑の関心が“北さんの彼女疑惑”にあるため言い争いにはならず、内心ヒヤヒヤしていた銀島はホッと安堵の息を吐いた。

「えっ、お前らと同じクラスの奴なん!? うわ、今度見に……」

「あかんで」

シン――と、水を打ったように部室内が静まり返った。
あれほど騒いでいた侑の声を通り抜け、真っ直ぐ鼓膜へ届いた芯のある声。
それは紛れもなく話題の中心である北信介のものだった。
四人がぎこちなく視線を扉へと向けると、そこには予想通り北が立っていた。

「あの子は俺のやから、ちょっかい掛けたらあかんで」

ミスター隙なしと名高い北の独占欲を孕ませた発言に、その場にいた誰もが固まった。
さっきまで喧しく騒ぎ立てていた侑までもが目を見開き言葉を無くしている。
そんな後輩達の様子を一瞥すると、北は「はよ帰り支度せえや」と静かに告げた。
その表情はいつも通りの涼やかなもので、一切の羞恥も動揺も見られない。
あまりにも通常運転な北の様子に、今の発言が冗談か本気なのか誰も解らなかった。

――ただ一人、角名だけは違った。
常日頃、弱点を探るためによく北を観察していたからだろうか。
生憎根拠はないが、今の発言はきっと本気なのだろうと感じた。
時々北の口から飛び出してくる冗談か本気か分かりづらいジョークでもなく、純度100%の北信介の本心なのだと確信していた。

あの北さんが女子に対して“自分の”なんて強気な発言をするなんて。
角名の中に小さな好奇心が芽生える。
しかも独占欲を向けているのは自分と同じクラスの女子で、後ろの席というおまけ付き。
これは首を突っ込まないなんて選択肢はないだろう。
もしかしたらついに北さんの弱点見つけちゃうかも、と角名は上機嫌で帰り支度を始めるのだった。



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