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▼ 02

北くんに別れを告げた次の日の朝――いつもの癖でつい北くんにメールを送ってしまいそうになった私を正気に戻したのは、昨日から電源を切ったままの携帯電話だった。
メールを見た北くんから連絡が来るかもしれない。
そう思ったら切らずにはいられなかった。
だって平常心が保てると思えなかったから。

メールは送らず、携帯の電源もそのままにして私はいつもより丁寧に身支度を始めた。
派手になり過ぎないようにメイクも施した。
北くんを見て涙が溢れそうになっても、メイクしてるからと堪えることが出来るかもしれない。
このメイクはそのためだけのメイクだ。

鏡に映った自分の顔を見て溜め息を吐く。
酷い顔――とまでは言わないけれど、いつもより目付きが鋭くて可愛げのない顔だ。
鏡から視線を逸らして、電源を切ったままの携帯を鞄の中に入れ、私は重い気持ちを抱えたまま家を出た。



朝、北くんには部活があり、クラスの違う私達は会おうと思わなければ昼休みまで会うことはない。
だから昼休み前に北くんに会えたら一昨日までの私なら喜んでいただろう。
そう、一昨日までなら。
今は、違う。

「話し、あるんやけど」

いつもより少し早めに登校し、いつもより人が疎らな昇降口に足を踏み入れた直後、少し息を切らせた北くんに手を掴まれた。
なんで、今の時間ってまだ朝練中のはずやん――そんな考えを読み取ったのか北くんが「今日は早めに終わったんや」と答えた。

「なんで連絡つかんかったん」

「携帯、見てないから分からん……充電切れてんのかも」

「……あのメールどういうことや」

「……そのまま、の意味」

淡々と言葉を投げかけてくる北くんと途切れ途切れの私、何と対照的なことだろう。
別れを告げられても北くんは何も変わらない、いつも通りだ。
その事実がストンと胸に落ちた。

「お別れしよ」

今度はメールじゃなくて、ちゃんと自分の口で告げる。
北くんの目が見開かれ、綺麗な瞳が真っ直ぐ私を捉えた。

北くんはちゃんとした人だから、他に好きな子出来たとしても私と別れてからアプローチかけたりデートしたりすると思ってた。
だから、ちゃんとすることを忘れてしまうくらい幼馴染の子が好きなんだって解るよ。
別れる前でも、私とのデートをドタキャンしてでも、あの子とデートしたかったんだって、解るよ。
ちゃんと解ってるから、だからお願い早く手を離して。
その手に掴まれとると涙が出てきそうな気ぃするんよ。

「手……離したって」

「あかん」

「このままじゃ教室行けへん」

「このまま一緒に行けばええやろ。 なんで、あかんねん」

「そんなん北くんも解っとるやろ?」

こんな手ぇ繋いだまま教室行ったら、せっかく別れたのに幼馴染の子に勘違いされるやろ。
そう口には出さず、私の手を掴む北くんの指を一本ずつ丁寧に解いていく。
優しい北くんは私を傷つけるような力で触れたりしない。
だからすぐに解くことが出来た。

「バイバイ、お幸せに」

ひらり。
北くんから解放された手を軽く振り、踵を返して歩き出す。
北くんは追いかけては来なかった。
急ぎ足だった歩調が少しずつゆっくりと落ちていく。
ソ、と目元に触れると、涙なんか一切滲んでないカラリとした目元が確認できた。
直接別れを伝えても泣きもしないんだもん。
そんな可愛げがない私より、天真爛漫で表情豊かな幼馴染の方がそりゃあ可愛いわ。

「あー…………」

なんや、しんどいわ。

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