HQ | ナノ


▼ 01

「遠くから来たん?」

聞き覚えのない男の子の声が聞こえる。
そう理解すると靄のかかった思考がサア、と晴れていき、見知らぬ川辺の景色が視界いっぱいに広がった。
そして目の前には中学生くらいのまだ少し幼さが残る少年がいる。
声の正体はおそらく彼なのだろう。
隣同士で座っているのか、やけに距離が近い。

「うん、とおくからきたよ」

男の子の言葉に返事を返した私の声は今よりも大分舌足らずな幼いもので、ああこれ夢かと漸く理解した。
夢なら何も難しく考える必要もない。
動画を観るような気分でのんびり鑑賞モードに入る。

「また遠くに行くん?」

男の子が寂しそうに表情を暗くした。
本当に私との別れを悲しんでくれてるのだと解るその表情を見ながら、なんだか既視感のある夢だなぁ、とボンヤリと考える。
全然覚えてないけど幼い頃の夢なのだろうか。

「また会いにくるよ」

幼い私が無邪気に言うと、男の子の表情が少し明るくなった。

「約束やで」

「うん、やくそくね」

幼い二人が約束を交わすと、夢の終わりを告げるように視界が真っ暗になった。
意識が浮上していくような感覚に身を任せながら、今何時頃だろうなぁ、なんて考えているとすぐ耳元でさっきの男の子の声がした。

「もしも約束破ったら――」

口の中に嫌な味が広がる。
男の子の声は、最後まで聞くことができなかった。


パッと瞼が開く。
一拍置いてから此処が自分の部屋だと思い出し、欠伸をしながらノロノロと身体を起こした。

「……あれ、なんだっけ」

なんか夢を見ていた気がするのに全然思い出せない。
夢だと自覚できる夢だったってのは覚えているんだけどなぁ。
まあでも夢ってそんなもんだよね。
そう結論付け私は夢のことなど頭から放り出し、身支度しようとベッドから降りた。





――また夢を見た。
昨日と同じ、夢だと自覚できる夢だ。
白い霧が漂っているのか一寸先も見えないほど視界が真っ白に揺らめいている。
霧を払おうと右手を少し伸ばし左右に振ってみるが効果はなく、少しも霧は晴れなかった。
なんだか気味の悪い夢だなぁ――そう考えた瞬間だった。

「なあ、約束忘れたん?」

霧の中から低い男の声が聞こえ、ビクリと肩が跳ねた。
一人だと思っていた空間に誰か知らぬ人間がいる――そう理解すると夢だというのにゾクリと背筋が冷えた。

「や、約束……?」

「約束したやろ」

薄らと霧が晴れ、前方に人影が見えた。
その影は大きく、おそらく声の主である男のものだということが分かり、私は思わず一歩後ずさった。

「約束破ったら、追いかけに行くって」

影が動き、大きな手が私に伸ばされる。
逃げたいのに身体が言うことを聞かず、手が近づくのをただ待っていることしか出来なかった。
心臓の鼓動に合わせて呼吸も浅く速くなっていく。
男は何も言わず、私の息遣いだけが鼓膜を揺らした。
とうとう指先が私の首に触れる。
「ひゅ」と悲鳴の代わりに喉が鳴り、息が止まった。

「捕まえた」

手が、私の首を掴んだ。

「――っ!!」

ドッ、と心臓が強く打ち付けられたような衝撃を覚え、目を見開いた。
ドクドクと鼓動を早める心臓を宥めるように深く息を吐く。

「あ……夢、か」

いつの間にか白い霧が消え去った視界に気付き、夢から覚めたのだと理解したのは数秒経ってからだった。
変な気分で目覚めたからだろうか、酷く頭が痛い。
全身汗だくでベタベタして気持ち悪い。
シャワー浴びなきゃ。

憂鬱な気分でベッドを降りる。
まだ頭痛がする、後で痛み止め飲もう。
とにかく今はお風呂に入りた――

「おいで、はよ俺のとこに来て」

頭の中で声がした。


prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -