なぜかリボーンの世界に転生してしまった私。
そして年を重ね、ついに並盛中学校に通う年齢になってしまった。
主人公キャラ達と同い年なのはとっくに確認済みだ。
こうなったら意地でも目立たずに生きてやると誓って数ヶ月。
程々に友人を作って、不審に思われない程度にキャラ達に関わらないようにしてきた。
なのに何故、私の目の前に「獄寺隼人」が居るのだろう。
「……」
「……」
現在地はベタに校舎裏。
別に目の前にいる彼に呼び出されたわけでも、呼び出したわけでもない。
当番でゴミを捨てに行って、教室に戻ろうとしただけ。
そして通りかかった校舎裏で獄寺隼人と遭遇してしまった。
目が合って、こっちに歩み寄ってきたかと思えば彼は目の前で立ち止まった。
そして何も言葉を発さず、ただ私を見下ろすだけ。
なにこれ、なにかの罰ゲーム?
早く教室に帰りたいんだけど素通りしていってもいいのだろうか。
いやでもこんな近距離で対面してるのに何も言わずに素通りするのも気まずい気がする。
「あの……」
意を決して、声をかける。
獄寺隼人の肩がピクリと跳ねた。
「私に何か用?」
聞くが、獄寺隼人は反応を示さない。
なにこれ実は死んでるの?
返事がない、ただの屍のようだ。
「……じゃあ、私行くから」
このままでは埒が明かない。
特に何かを言われたわけでもないし、このまま教室に帰ろう。
そう思って獄寺隼人の横を通り抜けた。
「……っ、待ちやがれ!!」
「!?」
急に大声を出されて、驚いて立ち止まってしまった。
恐る恐る振り返ると、獄寺隼人が私を睨むように見ていた。
こわ。
「テメェ……」
「は、はい」
つい敬語になってしまう。
それほど彼は怖い。
見た目もだけど、獄寺隼人は怒ったらダイナマイト投げつけてくるイメージがある。
ただの一般人な私はダイナマイトなんて投げられたら確実に死ぬ。
そういった恐怖が私の思考を支配していた。
「……え、は…」
「へ?」
獄寺隼人が小声で何かを呟いた。
だけど私には少ししか聞き取れなかった。
「なんて?」
聞き返すと獄寺隼人は再び小声で何かを言った。
だけど案の定小声では聞き取れない。
再び聞き返す。
そんなやり取りをしているうちに、獄寺隼人の顔が段々と赤くなっていった。
「あの、もう一度……」
「だから!テメェの名前を聞いてんだよ!!」
やけくそ気味に叫んだ獄寺隼人の言葉に私はポカンと口を開いてしまった。
名前を聞く為だけにあんなに時間をかけていたのか。
しかも今の彼の表情。
顔を赤くして、まるで好きな子に話しかける思春期の子みたいな……。
そこまで考えて鳥肌が立った。
ないないない、有り得ない。
「オイ、聞いてんだろ」
「あ……えっと、苗字名前」
まだ内心混乱していて、しどろもどろに自分の名前を告げた。
すると獄寺隼人は少し嬉しそうな表情で私の名前を呟いた。
いやちょっと待て誰だよお前。
「あのよ……」
「オーイ、獄寺ー!」
獄寺隼人が何かを言おうとした瞬間、獄寺隼人の背後の方から男子生徒の声がした。
「なっ、野球馬鹿!?」
「なにしてんだ? こんなとこで」
獄寺隼人が気を取られている。
逃げるなら今しかない!
私は脱兎の如くその場から逃げ出した。
**
教室に辿り着き、乱れた息を整える。
さすがに校舎内では走れないから、注意されない程度の早歩きで此処まで来た。
幸い獄寺隼人は私を追っては来なかった。
「ハァー……」
私以外の当番は皆帰ってしまったらしく、教室内には誰もいない。
自分の席にだらしなく座り込む。
「あーあ……」
私は「リボーン」の中で獄寺隼人が一番好きだった。
十代目に忠誠を誓って、真っ直ぐ突っ走るあの性格が好きだった。
だからだろうか。
今日見た獄寺隼人の「恋をしている」ような表情が私にはショックだった。
「見たく、なかったなぁ」
自分なんかに好意を抱いている獄寺なんて。