小説 | ナノ


リゾットがプロシュートに相談がある言われたのは今朝のことだった。
まだ誰も起きていない早朝に神妙な顔で言われたのだ。
ついに来てしまったかと内心でゲンナリしたリゾットは悪くない。

相談の内容は言われなくても解っていた。
十中八九、ナマエの事だろう。
最近のこの兄妹の様子を見ていればチームの誰でも解ることだ。

とりあえず今夜話を聞くと告げたもののリゾットは気は進まなかった。
しかし相談に乗らないという選択肢は無い。
乗らなかったら乗らなかったで面倒な事になるからだ。

そうして迎えたその日の夜。
チームの拠点では他のメンバーやナマエが居るので適当なバーへと行くこととなった。

バーに着き、店内の奥の方のテーブル席へ向かい合って座る。
プロシュートは相変わらず神妙な顔をしたまま口を閉ざしている。
対するリゾットも自分から話題を切り出すことはしなかった。

「……なあ、リゾット」

暫くするとプロシュートが口を開いた。
遂に切り出してきたかと思いながらリゾットは「なんだ」と返した。

「ナマエの事なんだが……」

「ああ、最近は反抗期のようだな」

「ッ!?」

リゾットの言葉にプロシュートは大袈裟な反応を見せた。
何故判ったとでも言うような表情でリゾットを凝視している。

「いいか、あれぐらいの年頃なら仕方の無いことだ。 今はそっとしておけ」

「そっとしておけって……いつまでそっとしときゃあ良いんだ」

「そんなもの俺は知らん」

感情的になっていくプロシュートと淡々とした態度のリゾット。
若干リゾットも面倒臭さが勝って素っ気ない対応となっていた。

プロシュートがナマエを拾ってから十年余り。
まだ一桁の少女だったナマエも十代半ばとなり、絶賛反抗期となっていた。
少し前まではプロシュートを「お兄ちゃん」と呼び、その背を追いかけていたナマエも今では「兄貴」と呼ぶ始末。
前に比べてプロシュートにベッタリすることも極端に減った。
そういった年頃の娘の成長について行けないのが目の前のこの男である。

「あんまり構いすぎると嫌われるぞ」

リゾットの言葉にプロシュートはビシリと固まった。
それほどにリゾットの言葉は破壊力があった。
ナマエが俺を嫌うなんて有り得ねえ。
そう自分に言い聞かせようとするが、近頃のナマエとのやり取りが脳裏に過ぎった。

「おう、ナマエ」

「なに」

「明日暇だしよォ、久々に二人で出かけるか?」

「私は兄貴と違って暇じゃない」

プロシュートの誘いをナマエはバッサリと一刀両断してスタスタと自室へと行ってしまった。
ほんの数十秒ほどのやり取り。
その間、ナマエは一度もプロシュートと視線を合わせなかった。
以前のナマエならば、「お兄ちゃんとお出かけ嬉し〜い!」とキラキラした表情で飛び跳ねて喜んでいただろう。

「というか」

再びリゾットが口を開く。
過去の思い出へと飛ばしていた意識が現実に戻った。

「既に嫌われているんじゃないか?」

「……ッ!」

カッと頭に血が上る。
気づけば左手でリゾットの胸ぐらを掴み上げていた。

「そんな事あるわけねえだろッ!!」

自分の声が鼓膜をビリビリと揺らした。

「……?」

プロシュートはパチパチと数回瞬きをした。
先程まで薄暗いバーに居たはずなのに、今視界に映っているのは明るい部屋の天井。
リゾットを掴んでいたはずの左手は空を掴んでいる。

(夢か……)

プロシュートは心の底から溜息を吐いた。
ふと、プロシュートは目元に違和感を覚えた。
触れるとそこは濡れていた。
どうやら夢を見ながら涙を流していたようだ。
いい年した大人が妹に嫌われる夢を見て涙を流していた。
いい年した大人が、妹に嫌われる夢を見て…。
その事実はプロシュートに衝撃を与えた。
恥ずかしさと遣る瀬無さを振り払うように、力強く目元を擦った。

「お兄ちゃん?」

不意に扉の向こうからナマエの声がした。

「おう、どうした?」

返事を返すと、遠慮がちに扉が開いてナマエが入ってきた。

「大きな声がしたけど、大丈夫?」

夢の中で見た成長したナマエではなく、いつもの幼いナマエが心配そうにコチラを見つめている。
その姿にプロシュートは心の隅で安堵した。

「何でもねえよ。 なあ、ナマエ」

「なあに?」

「今日は一緒に出かけるか」

プロシュートの言葉にナマエが表情を輝かせ何度も頷いた。
ナマエが自分を嫌うなど有り得ない。
だがしかし、万が一にも夢のようにナマエに反抗期が来ないとも限らない。
だったら反抗期が来ない程にベッタベタに甘やかしてしまえばいい。
「嫌い」などという言葉が間違ってもナマエの口から出てこないように。

「何でも好きなもん買ってやるよ」

そういうとナマエはプロシュートに抱きつき、「お兄ちゃん大好き!」と笑った。

そうだ、それでいい。
お前は呑気な面して俺に甘えてればいい。
そんなプロシュートの心情も知らずに笑うナマエを見て、プロシュートも小さく笑った。


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