小説 | ナノ


今日は特に任務もなく、お気に入りの鏡の手入れをしていたところ。
何やら部屋の外でバタバタと足音が聞こえた。
足音の主はすぐに解った。
このチームであんな足音を立てるのは、あの幼い少女以外にいない。
また何かやらかしたのだろうと、特に気にせず姿見の手入れを続行していたら、足音が俺の部屋の前まで来た。
そしてノックもなしにバンっと勢い良く開かれた。

「イルーゾォーーッ!」

部屋に乱入してきたのはチームの幼い少女、ナマエだった。
いつも「立派なレディ」でいるように心掛けているナマエがノックもなしに入ってくるなんて。
一言文句でも言ってやろうかと口を開いたが、それより先にナマエの口から言葉が飛び出した。

「お願い! 鏡に入れてほしいの!」

「ハァ? 急になんだよ」

「お願いお願い! キンキュー事態なの!」

「…仕方ねーなあ」

あんまり頼み込んでくるもんだから仕方なくナマエと自分を許可して鏡の中に入った。
鏡に入るとナマエはホッと息を吐いた。

何かあったのか。
そう訊こうとしたら、これまたノックも無しに今度はかなり乱暴に部屋の扉が開いた。
こいつらは人の部屋をなんだと思っているんだ。
そう思いながら鏡の向こうを見たら、部屋に入ってきたのはプロシュートだった。

それで何となく察する。
ナマエはどうやらプロシュートと喧嘩をしたようだ。
そしてプロシュートの少し焦ったような表情を見る限り、怒っているのはナマエのようだ。

「プロシュートと喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩じゃないもん…お兄ちゃんが悪いんだから」

唇を突き出して拗ねた表情をするナマエ。
拗ねた表情をしているあたり、本気で怒っているわけではなさそうだ。
多分プロシュートが余計なことでも言ったんだろうと予想をつける。

「おい、イルーゾォ!! 」

不意に鏡の外から呼び掛けられた。
見るとプロシュートがこちらを睨むような目つきで見ていた。
おそらく…いや、絶対俺たちが鏡に入ってるのを察したんだろう。
どうすべきか決めあぐねていたらナマエが俺の服の裾を掴んできた。
何かを懇願するような視線に、今はプロシュートに会いたくないのだと察する。
暫く無言のままでいたらプロシュートも諦めたのか此処に居ないと思ったのか、部屋を出て行った。

「ほら、プロシュート行ったぞ」

「…うん」

「何かあったのか?」

訊くとナマエは俯いた。
いつもプロシュートに引っ付いているナマエが怒るほどだ。
プロシュートが何をやらかしたのか興味がある。

「あのね、お兄ちゃんが…」

「ああ」

「…私のプリン、食べちゃった」

「は?」

あまりに拍子抜けな内容に、気の抜けた声が出た。
しかし当の本人であるナマエは至極深刻な表情をしている。
内容と表情がミスマッチだ。

「ホントお前、バンビーナだよなあ」

わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でてやるとナマエは抗議の声を上げた。

「バンビーナじゃないわ! 立派なレディーよ!」

「プリン一個でピーピー言ってる間はバンビーナだろ」

そう言い、ナマエを抱き上げてやる。
バンビーナ扱いされたからかナマエは不機嫌そうな顔をしている。

「プリンくらい俺が買ってやるから機嫌直せよ」

「え! 本当!?」

「ああ」

やっぱりお前はバンビーナだ。
大人のレディーはプリン一個で機嫌を直しちゃくれないぜ。

「ありがとう、イルーゾォ!」

「……」

満面の笑みを浮かべ礼を言ってくるナマエを見て、少しだけキュンときた。
…これじゃあまるでロリコンみたいじゃないか!
断じて俺はロリコンじゃあない。
荒ぶる心情を誤魔化すように、とりあえずナマエの頭を撫でておいた。

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