小説 | ナノ


私にはお兄ちゃんがいる。
とっても格好良くて優しいお兄ちゃん。
でも怒るとすっごく怖いの。
お兄ちゃん以外にも私には沢山の家族が居る。
みーんな優しくて、とっても格好良いの!
でもねでもね、私はお兄ちゃんが一番大好きだよ!


「お兄ちゃん!」

「ナマエ…、オマエなんつー格好してやがる」

「メローネが買ってくれた!」

嬉しくてその場でクルッと回ってみせる。
メローネが買ってくれた大人っぽいワンピース。
しかもお化粧もしてくれたの!

「ねえねえ、セクシー?」

「真っ平らが何言ってんだ」

「あうっ」

ペシって軽く頭を叩かれた。
叩かれた所を手で押さえる。
お兄ちゃんは本気で叩いたりなんかしないから痛くはない。

「レディに向かって酷いこと言わないで!」

「お前はまだまだバンビーナだ」

そう言って今度は乱暴に頭を撫でられた。
あーん!髪がクシャクシャになっちゃった!
せっかく綺麗に整えてたのに!
お兄ちゃんに不満気な視線を向けながら手で髪を撫で付ける。
お兄ちゃんはそんな私を少し笑いながら見ていた。

「お兄ちゃんって少しイジワル」

「優しいだろ、十分」

「ううん、イジワルよ! だってメローネはセクシーだって褒めてくれるもん」

「チッ…あの野郎」

お兄ちゃんが一瞬すごく怖い顔をした。
だけどすぐに怖い顔はなくなって、お兄ちゃんは私を抱き上げた。
さっきまで遠かったお兄ちゃんの顔がすぐ近くにある。

「いいか、ナマエ。 あんまりメローネの言うことを間に受けるんじゃねえ」

「どーして?」

「…大人になれば解る」

「えー」

お兄ちゃんってばそればっかり。
大人になれば解るって言ってはぐらかすんだもの。
お兄ちゃん達はどんなお仕事してるの?
皆が出来る不思議な手品は私には出来ないの?
ソルベとジェラートは男の子同士なのに恋人なの?
全部全部「大人になれば解る」って言われちゃった。

「ホントに私が立派なレディになったら解るの?」

「ああ」

「じゃあ立派なレディになったら、お兄ちゃんの恋人にもなれる?」

「バカか、兄妹は恋人にはなれないんだ」

お兄ちゃんがまたイジワルを言った。
私だって兄妹は恋人にもなれないし結婚も出来ないことくらい知ってるよ。
でも、そうじゃないの。

ねえ、お兄ちゃん知ってる?
私、お兄ちゃんに色んなこと訊いてきたよ。
でも一個だけ訊いたことない事があるんだよ。

私達、兄妹なのに全然似てないね。
お兄ちゃんは綺麗な金色の髪。
私はイルーゾォやソルベみたいな黒色の髪。
目の色だって違うのよ。
顔だって全然似てないの。
でも私、今まで一回も「ホントに兄妹なの?」って訊かなかった。
顔すら見たことないパーパとマンマの事も訊いたこと無いのよ。

だって覚えてるもの。
お兄ちゃんは私を拾ってくれた。
私が今よりもすごくすごく小さかったとき。
一人になった私をお兄ちゃんが拾ってくれたのよ。
だから私達が本当は兄妹じゃないって、私知ってるんだよ。

本当の兄妹じゃない。
家族なのに家族じゃないの。
だから私、いつかお兄ちゃんに捨てられないか怖いよ。
でも…恋人になったら一緒にいられるよね?
きっと本当の妹じゃないからって捨てられることもない。
私、また一人になるのがすごくすごく怖いよ…お兄ちゃん。
じわり、涙が溢れてきた。


「ったく、マンモーナが」

「あうっ」

突然お兄ちゃんに右手でほっぺを抓られた。

「いいか、ナマエ。 誰が何と言おうとお前は俺の妹だ」

「うー……」

「オマエが嫁に行くまで一緒にいるんだよ。 だから恋人なんかにならなくったって良いだろ」

ほっぺからお兄ちゃんの手が離れた。
ほっぺがヒリヒリ痛い。

「…お嫁に行けなかったら?」

「しかたねーから、そん時はずっと一緒にいてやる」

そう言ってお兄ちゃんは笑った。
私も嬉しくて笑った。
お兄ちゃんが「俺の妹だ」って言ってくれたのが嬉しかった。

「だから恋人になる必要はねえ。 わかったか、バンビーナ」

「うん! うん!」

ほっぺはまだ痛いけど、それでも私はとっても幸せ。
お兄ちゃん、私はお兄ちゃんが大好きだよ。
私を拾ってくれて、一人にしないでくれてありがとう。


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