小説 | ナノ


生まれ変わったら康一君ポジションでした。
転生させてくれたのに死亡フラグを乱立させるなんて、そりゃないぜ神様。

そんなこんなで仗助君と出会い、スタンド能力も目覚めてしまったわけで。
もう関わってしまったからには腹を括ろうかと思い始めている今日この頃。
でもやっぱり心が挫けそうです。

「いらっしゃいませ! おひとり様ですか?」

「あ、いえ…待ち合わせ、です」

いつもは立ち寄る事の無いオープンテラスカフェ。
なぜ私がこの様な場所に来たかと言えば、呼び出されたからだ。
しかし相手より先に着いてしまったようで、店内を見回しても目的の人物は見当たらなかった。

待ち人が私に気づき易いようにと屋内ではなくテラスの席へ腰掛ける。
とりあえず、先に注文してしまおうと店員さんにコーラを頼んだ。

「……」

特に何もする事が無く、そわそわと辺りを見回してしまう。
あ、そういえば、この場面を仗助君達に目撃されるんだったっけ?
助けてくれないかなあ…なんて心の中で呟いてみるが望みは薄い。
ため息を吐きそうになるのをグッと堪えた。

そして待ち人が来たのは、私が注文したコーラが運ばれてきて直ぐのことだった。

「名前ちゃん」

「ゆ、由花子さん…」

「ごめんなさい、待たせてしまったわよね…?」

「そんなことない、です。 はい」

待ち人こと由花子さんは申し訳なさそうに眉を下げ、私の向かいの席についた。
そして店員さんにコーヒーを注文すると、顔を赤らめながら私の方に視線を向けた。

そう、康一君ポジションになってしまった事によって由花子さんとの恋愛フラグが私にも立ってしまったのだ。
由花子さんから呼び出しを受けた時は恋愛フラグだとは思っていなかった。
だって私も彼女も女性、同性なのだ。

正直、私が一番死亡フラグだと思っていたのは由花子さんの事だった。
だから康一君ポジションでありならが女性で生まれた事を心から感謝していた。
女性同士ならば恋愛フラグが立たない。
そう思っていた時期が私にもありました。
でも、私に対する彼女の声が、視線が、態度が、私を好きだと言っていた。
それはもう解り易いくらいに。

「名前ちゃん…呼び出したりして…その、迷惑でした?」

「め…迷惑じゃあないです、よ?」

何の用?とは敢えて訊かない。
自分から死亡フラグを立てる必要は無い。
彼女が本題に入れない様に関係ない話をし続けるんだ…!
頑張れ私のなけなしのコミュニケーションスキル…!!

「そ、それにしても由花子さんってオシャレなお店知ってるんですねえ! とっても素敵な店で気に入っちゃいました! あっ、そういえば由花子さんコーヒー注文してましたけどブラック飲めるんですね! 私、ブラックって飲めないんですよ〜。 オシャレなお店に来てもいつもジュース頼んじゃうのってやっぱり子どもっぽいですかねえ?あはは…」

内容のない薄っぺらい言葉を連ねていく。
だけど肝心の由花子さんは俯き、私の話があまり耳に届いていないようだった。
これはマズイ…!
もっと彼女の関心を引く話題を出さなきゃ!!

「と、ところで由花子さんって…」

「名前ちゃん」

「は、はいっ……あ」

由花子さんに呼ばれ、反射的に返事をしてしまった。
返事をしたということは会話の主導権を譲ったも同然というわけで…。

「思い切って言います。 あたし、名前ちゃんのことが好きなんです」

「あ、はい」

知ってます、とはさすがに口には出せないので代わりに気のない返事をした。

顔を赤らめながらも真剣な顔で想いを告げる由花子さんは、確かに可愛い。
いや、可愛いというよりは綺麗と言った方が良いかもしれない。
それこそ同性の私でも見とれるくらい。

「お付き合いしてる人いるに決まってますよね」

「い、いないです」

もしここで「いる」と言ったなら、きっと大惨事になるだろう。
私が彼女を死亡フラグと呼ぶのは“そこ”が原因だ。

彼女はジョジョ界を代表するヤンデレだ。
過激で、重くて、度を越して情熱的。
漫画で読んでいる時は結構好きなキャラだったけど、恋愛感情を持たれたら話は別だ。

だって私は康一君とは違う。
ヤンデレ監禁コースから脱することも、彼女に恋愛感情を持つこともきっとできない。
そんな私が安全に彼女から逃げおおせることが出来るわけない。
正直ラスボスと戦ってた方がマシだと思うレベルだ。

「わ、私達女の子同士ですよ…?」

「それが、なに?」

下手に刺激しないように断ろうと心がける。
少しずつでいい、お付き合いしない方向に持っていければ私の勝ちだ。
頑張れ私のなけなしの語彙力…!

「由花子さんなら素敵な男性だって放ってはおかないですよ」

私なんかじゃあなくて、と付け加える。

「あたし、名前ちゃんじゃあなきゃダメなんです」

「ふえ……」

あまりに真っ直ぐな言葉に間抜けな声が出てしまった。
真剣な彼女の眼差しが私を射抜く。

彼女が本気なのは嫌でも知っている。
つらつらと私の好きな所を述べていく由花子さんを他人事のような感覚で見つめた。
こうして見ると理想の女性なんだろうな、とは思う。
料理も手芸も完璧で、きっと頭も良いのだろう。
それに容姿も整っていて意志が強い。
もし彼女にヤンデレ属性が無かったら、いつか私も彼女が好きになっていたかもしれない。

「あたしのようなカワイクない女の子嫌いでしょうね?」

「由花子さんはとっても綺麗ですよ」

思いがけず、ポロっと本音が口から出た。
私がハッキリと言い切ったからか、由花子さんが少し驚いた表情で私を見た。
その頬は相変わらず紅潮している。

「じゃあ、あたしのこと好きですか?」

由花子さんの瞳が、真っ直ぐ私を捉える。
冷や汗が流れた。
この展開は、かなりマズイのでは…。
ここで言葉を濁したり曖昧な態度をとったら原作通りの展開になりかねない。
かと言って断ったらもっと悲惨なことになるだろう。
あと選択肢は…ひとつ、だけ…。

「私も…好き、です」

負けた。
いや、負けたというより自分の身の安全を取ってしまったと言った方が正しいかも知れない。
自分の不甲斐なさにガックリと肩を落とした。

「ほんとうっ!?」

由花子さんが身を乗り出して、私の両手を包み込むようにして握った。
勢いよく身を乗り出したためにコーヒーカップが倒れてテーブルクロスを汚したが、由花子さんは全く気づいていないようだった。

「嬉しいわっ、名前ちゃん!」

「あ、はは…」

心底嬉しそうに微笑む由花子さんを見て、少し胸が痛んだ。
自分の身の安全のためとはいえ、嘘の言葉でここまで喜ばれるとさすがに良心が痛むというものだ。
もしかしたら、この選択は間違っていたのかもしれない。
いつか罪悪感と愛で押しつぶされるんじゃないかと自分の将来に不安を感じつつ、半ば諦めるように由花子さんに微笑みかけた。

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