小説 | ナノ


独占欲は誰にでもあるだろう。
それは恋人だったり友人だったり家族だったり。
人ではなく物だったり、様々な物を独占したくなる。
その気持ちは誰だって持っている。
「どんな手を使ってでも独占していたい」と思うか否か。
違いはきっとそれだけなのだろう。

俺はどちらかと言うと「そう思う方」だ。
それを知ったのは最近だ。
たった一つだけ、独占していたいモノができた。

「リーダー」

声を掛けられ顔を上げると、コーヒーカップを持ったナマエが立っていた。
コーヒーカップは一つではなく二つなので何となくナマエの用件を察した。
「どうした」と訊くとナマエはふわりと微笑んだ。

「コーヒー淹れたのでリーダーも如何ですか?」

「ああ、貰おう」

「どうぞ」

目の前のテーブルにコーヒーカップが置かれた。
そしてナマエは俺と対面するようにソファーへと腰掛けた。

「どうかしたのか?」

「最近リーダー、考え事ばかりだから気になって」

ナマエの言葉に「やっぱりか」と思った。
ナマエの言う通り、ここ最近は物思いに耽る事が多い。
きっとチームの奴らにもバレていることは自分自身察していた。

考え事というのはナマエに関してのことだ。
だから何と答えるべきかと悩んだが結局「たいした事じゃない」と当たり障りない言葉を返した。

「本当ですか?」

ジィっと疑いの眼を向けてくるナマエに苦笑いがこぼれた。
普段はチームのメンバーの言った冗談を間に受けるくせして、こういう時だけ疑い深いやつだ。

「ああ、本当だ」

「…そっか。 リーダーが言うんだったらそうですよね!」

納得したのかナマエは漸く引き下がった。
ナマエが多少鈍感で助かった。
彼女が嘘を見抜くのが得意だったら、あっという間に俺の嘘は見抜かれただろう。

もしも…ナマエに俺がどんな手を使ってでも独占したいという気持ちがバレたら、どうなるだろうか。
…きっと軽蔑するだろうな。
もう「リーダー」と呼ぶことさえも無くなってしまうんじゃあないだろうか。
もう笑顔を向けてくる事もないだろう。
そうなるくらいなら今の「リーダー」と「部下」の関係でいた方が良い。
その方が良いに決まっている。

「リーダー」

「なんだ」

「何かあったら私に言ってくださいね! 絶対絶対、力になりますから!」

胸の前でガッツポーズを作り、勝気な笑みを浮かべるナマエ。
根拠も無いが、ナマエなら本当に力になってくれそうだと感じた。

「そうだな、その時は頼もう」

少し身を乗り出し、ナマエの方へ腕を伸ばした。
頭を撫でてやるつもりで伸ばした腕が無意識のうちにナマエの頬へと向かっているのに気づいた。
頬に手を添えようとしていたのだ。
何をしているんだと内心自分に呆れが浮かぶ。
自分を軽蔑しながら、何食わぬ顔で予定通りナマエの頭に手を置き、軽く撫でた。

「いつもすまないな」

「えへへ、リーダーのお役に立ててるなら光栄です」

そう言ってナマエは明るく微笑んだ。
まるで太陽のように眩しく、温かい笑顔。
そうだ、その笑顔があるから俺はナマエを独占したいと思ってしまう。

「じゃあ、私そろそろ行きますね」

「ああ」

自分が使ったコーヒーカップを持って、ナマエはこの場を去った。
途端に緊張の糸が切れた時のように深い溜息が出た。
ソファーにもたれ掛かり眼を閉じると先ほどの光景が浮かび上がってきた。

まさか無意識のうちに頬に手を添えようとするなんて。
…自制しなければならない。
俺をリーダーと呼び慕ってくるあの少女を、俺から護らなければならなければならない。
そうしなければきっと彼女からあの太陽のような笑顔は消えてしまうのだから。

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