私の好きな子は女の子です。
勝気で少しワガママで、優しい女の子です。
「トリッシュちゃん!」
「あら、ナマエ。 どうしたの?」
好きな女の子の名前はトリッシュちゃん。
私達は家がお隣同士で小さな頃からお友達。
「クッキー焼いたの! 一緒に家で食べよう?」
「ええ、いいわね。 お邪魔するわ」
そう言ってトリッシュちゃんは微笑んだ。
私はトリッシュちゃんの笑顔が好き。
小さい頃から彼女の笑顔が好きだった。
それこそ、お友達としての好きが恋愛感情になるほどに。
「行きましょう、ナマエ」
トリッシュちゃんが右手を差し出す。
だから私も左手をその右手に重ねた。
手を繋ぐのは幼い頃からの習慣。
トリッシュちゃんは「ナマエはすぐに迷子になるから」って言ってた。
さすがの私でもお隣の家から自宅に帰るまでに迷子になることはないのにね。
こんな短い距離でも手を繋いで歩いてくれるトリッシュちゃんが好き。
「クッキーすぐに持ってくから私の部屋で待ってて」
「わかったわ」
トリッシュちゃんと別れてキッチンに行く。
そしてトリッシュちゃんの好きな紅茶を淹れる。
私は紅茶もコーヒーも飲めないけど、このトリッシュちゃんの好きな紅茶だけは飲めるようになった。
だってトリッシュちゃんの好きな物だもの。
紅茶のポットとティーカップ。
そしてクッキーをトレイに乗せて自室に向かう。
「お待たせ、トリッシュちゃん」
部屋に入るとトリッシュちゃんは椅子に座って待ってた。
向かい合ってお喋りしたくて買った小さいテーブルと2つの椅子。
テーブルクロスはトリッシュちゃんと一緒に選んで買ったピンク色のお気に入り。
そのお気に入り色のテーブルにトレイを置いた。
「美味しそうね」
「ふふ、自信作なの」
そう言うとトリッシュちゃんはクッキーを1つ摘んで口に入れた。
「あっ、まだ紅茶も注いでないのに!」
先に食べちゃうなんて!
批難の声を上げてもトリッシュちゃんは素知らぬ顔。
サクサクとクッキーを咀嚼する音だけでお返事しない。
「あら、とっても美味しいわ」
トリッシュちゃんがパチクリと目を瞬かせる。
このリアクションは本当にとっても美味しいって思ってる反応だ。
いつも素直な反応をくれるトリッシュちゃんが好き。
「ふふ、言ったでしょ? 自信作だって」
カップに紅茶を注ぎ、トリッシュちゃんの前にカップを置く。
自分の分も注いで、私も椅子に座った。
「ナマエは昔っからお菓子作りが上手ね」
「うん、だってトリッシュちゃんが褒めてくれたから」
「え?」
「初めて作ったクッキー」
小さい時に初めて作ったお菓子。
失敗しちゃって美味しくないクッキーをトリッシュちゃんが食べてくれた。
絶対に美味しくなかったはずなのに「美味しいわ」って言ってくれて。
「だから私、絶対にトリッシュちゃんに心から美味しいって言ってもらえるお菓子を作ろうって決めたの」
「ナマエ、貴女…」
「ん?」
「そんな昔のこと、よく覚えてたわね」
「だってトリッシュちゃんとの思い出だもの。 忘れないよ」
キッパリと言い切る。
だって大好きな子との大切な思い出だもの。
忘れたくないに決まってる。
「…あたし、ナマエのそういうトコが結構好きよ」
「ふふ、ありがとう」
顔を赤らめて私に真っ直ぐ言葉を投げかけてくれるトリッシュちゃんが好き。
トリッシュちゃん。
私ね、トリッシュちゃんの好きなところ沢山あるよ。
1日でこんなにも“好き”が見つかるんだもの。
きっと明日もまた今日とは違う“好き”が見つかるわ。
「私もトリッシュちゃんが好きだよ」
きっと貴女とは違う意味の好きだけど。