小説 | ナノ


「ナマエって、よくブチャラティの方を見てるよなァー」

キッカケは、ナランチャのこの言葉だった。
今日はブチャラティから招集がかかって為、何時ものリストランテに集まっていた。
まだ私とナランチャしか来ていなくて暇つぶしに世間話をしていた。
それで唐突にナランチャが冒頭の言葉を発したのだ。

「え…えー? そうかなあ?」

ナランチャの言葉は正直、私には心当たりのない事だった。
だって私は自分ではブチャラティの方を見ているつもりはないもの。

「絶対そうだって!」

「えー…」

キッパリと言い切るナランチャ。
その力強い言葉に少し身を引いてしまう。
もしかしたらナランチャの言う通りなのか?なんて考えまで浮かんできた。
だけど直ぐにそんな考えは打ち払う。

「きっと違うよ、ナランチャ。 貴方の勘違い」

「そうかぁ?」

「そーよ」

私が言い切ると、ナランチャは腑に落ちないといった表情をした。
だけど大人しく引き下がってくれるようだ。
これ以上ナランチャの言葉に耳を傾けていたら危なかったかもしれない。
なんせ私は他人の言葉に影響されやすい。
きっとあのままナランチャの言葉を聞いていたらどうなっていただろう。
自分はブチャラティが好きなのでは?なんて突拍子もない考えに至ったかもしれない。
だからナランチャが引いてくれて良かった。
そう思っていたけれど、ナランチャの言葉は意外にも私の胸の中に残ってしまった。

あれから数日。
何だかブチャラティの事が気になってしまって、意識して彼に視線を向けるようになってしまったのだ。
これではナランチャの言った言葉が現実になってしまっている。
だけど止めようと思っても気づけば視線で追っていて、自分ではどうしようもないのだ。

「どうした、ナマエ」

「えっ?」

「最近、よく俺の方を見ているな。 何か気になる事でもあるのか」

とうとう私の視線は彼にバレたらしい。
いや、きっと彼の事だから随分前から気づいていたことだろう。
ただ私に理由を訊ねる機会が無かっただけだ。

「な、なんでもないのよ、ブチャラティ」

「そうなのか?」

「そーよ!」

いつかナランチャとした様なやり取りを今度はブチャラティとする羽目になっていた。
ブチャラティはナランチャの時と同じように引き下がってくれるだろうか。
引き下がってくれるように祈る他ない。
しかし、その祈りは届かなかった。

「お前が俺の方を見ていると感じるのは俺の勘違いだったか?」

一歩、ブチャラティが私の方へ近づいた。
その一歩で彼は随分と私に近づいた。
その距離にドキリとした。
それは急に近づかれて驚いたのか、それとも恋愛的なトキメキなのか。

「ブ、ブチャラティ…?」

何となくこの胸の高鳴りは前者のような気がする。
何だか怖い。
ブチャラティがブチャラティではないみたいだ。

「なんだ?」

「何だか怖いよ、ブチャラティ…」

一歩、後ろへ下がった。
ブチャラティが近づいた分だけ再び離れる為に。
しかしブチャラティは私が空けた距離をまた埋めようと一歩近づいてきた。
また一歩下がる。
また一歩近づかれる。
また一歩……そうやって繰り返していたら、私の背がトンっと壁に当たった。
後ろに下がり続けていた為、もう後ろには逃げ道は無かった。
後ろがダメなら横だと思い、横に避けようとした。
しかし私が横に一歩踏み出すよりも前に、伸びてきた腕が私の行く手を阻んだ。
恐る恐る真正面を見ると依然変わらぬ態度のブチャラティが私を見下ろしていた。

左右はブチャラティの両腕。
後ろは壁。
正面にはブチャラティ。
ああ、なんということ。
逃げ道がない。
退路が絶たれてしまった。
そう頭で理解すると同時に、心の中にヒヤリとしたものを感じた。

「ナマエ」

ブチャラティが私を呼ぶ。
言葉は返さずに視線だけを彼に向けた。
こうして見ると、いつもと変わらないように思える。
ただ距離だけが近過ぎるのだ。
その距離は私を恐怖とトキメキが混同した様な気持ちにさせる。

「俺の勘違いか?」

先程問うたことを再び私に訊ねてきた。
その問いに、さっきの私は何でもないと答えたはずだ。
しかしブチャラティはその答えが気に入らないらしい。

「なあ、ナマエ」

「……ッ」

ブチャラティの右手が壁から離れ、するりと私の頬を撫でた。
指先を滑らせる様に、流れる様に。
そんな事をされては私の胸の高鳴りは恐怖が混同したものではなく、トキメキ一色に塗り変わってしまった。
ドキドキと苦しいくらい高鳴る胸を押さえつける。

「どうなんだ?」

私は、流されやすい人間だ。
ついこの間だってそう。
ナランチャによくブチャラティの方を見ていると言われた時、そうなのか?と思いそうになった。

更に言えば、その場の雰囲気にも影響されやすい。
パスタが食べたいと思っていても皆がピッツァが食べたいと言いだせば私もピッツァが食べたくなる。
そういう人間なんだ、私は。
つまり何が言いたいのかと言えば、そう。

「ずっと…見てました」

この場の雰囲気に流されてしまったということです。
ああ、なんということ。
綺麗に笑みを浮かべるブチャラティの顔を見ていると私は、雰囲気に流されて良かったなんて思ってしまったのです。


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