小説 | ナノ


ジョルノは時々、突然人を呼びつける癖がある。
本人曰く、発作的に人肌が恋しくなるらしい。
その度に私を呼び出し「今日一日、側にいてください」と懇願するのだ。
パッショーネのボスとなってからは殆ど使わなくなった敬語も、この時だけ復活する。
そんな恋人兼ボスの声を聞いてしまうと、どこに居ても彼の元へと向かってしまうのだ。

目の前の扉をノックする。
「ボス?」と呼びかけるが返事はない。
これはいつも通りなので気にせずドアノブに手を掛けた。
カチャリ、と音を立てて扉を開く。

「失礼します、ボス」

部屋に入り、パタンと扉を閉める。
視線を正面に向けると、不満げな表情をしたジョルノと目が合った。
その様子に苦笑が溢れる。

「お待たせ、ジョルノ」

「ええ、随分待ちました」

名前で呼ぶと、漸くジョルノは笑みを浮かべた。
恋人とはいえ表向きはあくまでもボスと部下という関係だ。
なので誰かに聞かれてしまいそうな場所では私はジョルノをボスと呼ぶ。
そうやって何度も理由を説明してもジョルノは私がボスと呼ぶたびに不満げな表情をするのだ。

「さあ、こっちに座って」

そう言ってジョルノは自分の隣に座るように促した。
素直に隣りに座るとジョルノは機嫌良さげにクスクスと笑った。

「会いたかったですよ、僕の愛しい人」

「私もよ」

優しく抱きしめられながら言われた言葉に私も頷いた。
と言っても、部下としてなら三日前に会ったのだけれど。

「今日はずっと一緒にいてくれますよね?」

「ええ、ボスが急に私の仕事をキャンセルさせたから」

意地悪く言うと、ジョルノは少し下唇を突き出した。
その子どもっぽい表情にクスリと笑みが零れる。
私は、たまに見せるジョルノの子どもっぽい所が好きだ。
普段組織のボスとしての彼ばかり見ているからだろうか。

「ごめんなさい、冗談よ」

クスクス笑いながらジョルノの頭を撫でた。
それでもジョルノは表情を変えない。
いつもならこれで機嫌を直してくれるのに。

「ジョルノ?」

撫でる手を止める。
ジョルノを見ると視線が合った。
しかしすぐに逸らされた。

これは別に怒っているわけではないと思う。
小さな子どもが母親の関心を引こうとしているのと同じだ。
何だかどんどんジョルノが子どもっぽくなってる気がする。

「ジョルノ」

チュ、とジョルノの額に唇を落とした。

「機嫌なおして?」

ジョルノは何も言わない。
だけど機嫌を良くしたというのは、その表情を見れば分かった。

「…唇にしてくれたら直るかもしれません」

「あら」

そんな笑顔を浮かべながら言われてもねえ?
そう思いつつもジョルノの頬に手を添えた。
そして今度は額ではなく、その唇に自分の唇を重ねた。
ゆっくりと、合わせた唇を離す。

「ご機嫌はいかが?」

「ええ、すっかり良くなりました」

そう言ってジョルノは満足げに微笑んだ。

たまに訪れるジョルノの「人肌恋しい期」
私はこの時のジョルノが大好きだったりする。
だってボスの時とは違う、甘えん坊な顔が見れるんだもの。

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