私には秘密があった。
誰にも明かしていない秘密。
その秘密は、抱えるには少し重すぎるものだった。
全て打ち明けてしまおうかと思ってしまうくらいに。
「ねえ、ジョルノ」
二人きりの部屋で、隣にいるジョルノに話しかける。
するとジョルノは、その綺麗な顔を私の方へと向けた。
「どうしました?」
言いながら、するりと撫でるように私の髪に触れた。
その柔らかで優しい手つきに少し胸が高鳴った。
「例えばの話、聞いてくれる?」
「ええ」
私の髪を撫で続けるジョルノ。
その心地よさに負けて、話すのを止めようかと思いそうになる。
だけど、話さなければならない。
「例えば、私が貴方を殺すために送り込まれた暗殺者だったら…ジョルノならどうする?」
シン、と一瞬この世界の音という音が失くなったかの様な感覚に陥った。
ジョルノは何も答えない。
何と答えるべきなのか考えているのだろうか。
ジョルノのことだから直ぐに答えを出してくれると思っていたから意外だ。
そう思っていたら、ジョルノが口を開いた。
「そうですね、僕だったら…」
「…うん」
何と言われるのだろうと、緊張から心臓の鼓動が早まってきた。
無意識のうちに手をきつく握り締めていて、爪が皮膚に食い込んでいた。
「まず君がどこかの組織に属しているのか調べます。 組織に属しているなら、その組織を潰します」
「え?」
「ですが、あくまでも組織を潰したことを君には悟らせません。 君が完全に僕を信頼し、愛おしく想い、組織よりも僕を取ると選択するまで」
「ジョ、ジョルノ…?」
私の髪を撫でていたジョルノの手が、今度は私の手に触れた。
きつく握ったままの私の手を、さっき髪を撫でてた時みたいに優しく撫で付ける。
「組織が失くなれば、君の居場所は僕の隣りだけだ」
そう言ってジョルノは微笑んだ。
何回も見てる笑顔のはずなのに、何だか少し怖く感じる。
その恐怖を悟られないように押し隠そうとするけれど、身体は正直にカタカタと震え始めた。
「ジョ…ルノ…」
震える声が出た。
そんな私を見ても、変わらずジョルノは笑顔のままだった。
「そんなに怯えないでください」
頬に手が添えられたかと思えば、そのままキスをされた。
たった一瞬だけ合わさった唇はリップ音と共に離れていった。
「ナマエが最初に言ったんですよ、“例えばの話”って」
だから僕の話も例えばの話ですよと言われ、ハッとする。
そうよ、これは例えばの話。
平常心でいなければならない。
「そ、うだったわね、ごめんなさい…」
「いいえ、僕の方こそ怖がらせてしまってすみません。 許してくれますか?」
「勿論よ、愛しい人」
ジョルノの頬に口づけ、笑いかける。
ジョルノも笑い返してくれた。
その笑顔には先程のような怖い感じは無かった。
いつものジョルノの笑顔だ。
「さあ、もう遅いですから寝ましょう」
「ええ、そうね」
ジョルノと二人手を繋ぎながらベッドルームへ行く。
ベッドに入って眠りについても、次の日の朝を迎えても私の中の小さな不安は消えることはなかった。
だって私の話は“例え話”なんかじゃないんだもの。