「ちょっとオージャの大滝まで付き合ってくれねえか?」
唐突にそう告げてきたクラスメイトに対して私が返した言葉は「なんで?」だった。
クラスメイト――ペパーとはあまり話したこともなく、彼がどんな人物かも私はよく知らないのだ。
オーリム博士の息子で最近交友関係が凄い、とかそんなことしか知らない。
そんな人物からの誘いに疑問符しか浮かばない。
オージャの大滝も行くのが少し面倒だ。
出来れば御免被りたい。
「あ……無理ならナッペ山でも良いんだけどさ」
妥協しているのか微妙なラインの第二候補を提示され、思わず苦笑いした。
「そんなに登山好きなの?」
そういえば彼がいつも背負ってるリュックも大きいし登山趣味なのかもしれない。
しかしペパーは「いや、別に……」なんて歯切れの悪い言い方で否定してくるものだから益々私は困惑した。
「いつもデカいリュック背負ってるから登山好きなのかと思った」
「ああ……オレ、ピクニック好きでさ。それでこんな大荷物なんだよ」
「えっ、じゃあピクニックに誘えば良いのに」
変なの、と笑うとペパーは眼を丸くした。
まるで「その発想はなかった!」と言うかのような表情が面白くて笑い声が漏れてしまった。
「えっと……ピクニック、一緒に行かねえか?」
「ピクニックなら良いよ」
山道歩かないなら、と承諾するとペパーは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
そういえば、一緒のクラスだけどペパーの笑顔は初めて見たかもしれない。
そんな笑顔を浮かべてしまうほど誰かとピクニックに行きたかったのか。
でもそれならペパーには新チャンピオンとか生徒会長とか最近よく一緒にいる子達がいるはずだけど、その子達はどうしたのだろうか。
「他にも誰か来るの?」
「えっ? オレとナマエだけだぜ」
「いつも一緒にいる子達は誘わないの?」
問うと、ペパーは気まずそうに視線を彷徨わせた。
何か聞いちゃいけない事だったかもしれない。
二人きりと言うのは些か気まずいものがあるけれど承諾してしまったし、ちょっと付き合うくらい良いかと自己完結する。
「いつ行く?」
「この後すぐ……ダメか?」
もう授業とってないよな、と当たり前のように把握しているペパーの用意周到さに驚きながら「いいよ」と頷いた。
*
美味いサンドウィッチ作ってやるよ、とペパーが言うので、ピクニックに行く前に買い物に来た。
「どんなサンドウィッチが好き?」と問われるが正直好き嫌いはなく、口に入ればなんでも良いので「なんでも好き」と答える。
「なんでもか……」
ポツリと呟くペパーを見て、実家にいた時にママに「なんでも良いってのが一番困るのよねえ」と言われたのを思い出す。
困らせるのも悪いと思い、何か適当な具材を言おうと口を開いた時、ペパーが先に言葉を発した。
「へへっ、じゃあオレ特製のとっておきサンドウィッチ食わせてやるからな!」
なんて言いながら明るく笑うので、何だか眩しくなってペパーから視線を外した。
急に眩しいものを見てビックリしてしまったせいか、心臓がドキドキして仕方ない。
ああ、心臓に悪い。
「……楽しみにしてる」
ドキドキする胸を抑えながら言うと、ペパーは弾んだ声色で「おう、楽しみにしててな!」と答えた。