思えば、真一以外の男とメアドを交換したのは初めてだった。それがあの、豪炎寺修也くんなんて。彼は、天才ストライカーであり超絶イケメンである。そんな派手な人物がこの私なんかと、と未だ信じられないが、そんな豪炎寺くんが密かに女装をたしなんでいる方が信じ難かった。でも、私はこの目で見たのだ。豪炎寺くんが女の子になっている姿を。あの子が妹さんだったら、と考えたら、豪炎寺くんの本当の妹さん、夕香ちゃんを思い出して、胸が苦しくなった。夕香ちゃんは知ってるのかな、お兄ちゃんのちょっと変わった趣味のこと。答えはどうであれ、夕香ちゃんの病室に行った時に見た豪炎寺くんの目は、妹を愛するお兄ちゃんの目だった。だから、きっとカミングアウトしたとしても大丈夫な気がする。兄妹の絆があるから。
私は夕香ちゃんが再び目を覚ますことを信じて、帰り道の夕日を見つめた。


風呂上がり、ふと光っていた携帯のディスプレイに目を傾けた私は、真一という文字を確認した。
なになに・・・・・・、『今日の宿題なんだっけ?』だって、ちゃんと話聞いてなよ。『漢字問題集10〜12ページだよ』っと・・・・・・、ん?
私は真一に返信を送った後、まだ未開封のメールがあることに気づいた。そこには、豪炎寺くんというビッグネームがどんと構えていた。ドキドキしつつメールを開けば、その内容に目が点になった。
まじで言ってるの・・・・・・『明日空いてるか?もし空いてたら買い物付き合ってくれ』って・・・・・・。
明日のスケジュールは清々しいくらい真っ白だ。でも、あの豪炎寺くんと一緒に、買い物、とか・・・・・・。これって、端から見たらデートだよね。豪炎寺くんにそんな気ないことわかっているけれど、その状況を楽しんでしまいたいという下心が、悲しいが私には湧いてくる。だって、イケメンとデートなんて初めてなんだから!まあ、普通じゃないけどね。
『空いてる!私でよかったら付き合うよ』返信すると、すぐに返事がきた。『ありがとう』と可愛いピンクのくまのデコメ。思わず吹き出す。趣味のことを知っていても、やっぱりあの豪炎寺くんとはミスマッチだ。女の子な豪炎寺くんならまだしも。きっと、初めて使ったんだろうな。初々しさが文面に溢れている。そして『名字にしか頼めない』という一見甘いセンテンツに少しだけ酔いしれた私だった。
その後、明日の待ち合わせ場所や時間を決めて、豪炎寺くんとのメールのやり取りは終わった。手を振るピンクくまが愛らしい。

私に豪炎寺くんの相談相手がつとまるかなあ。

いろいろな不安を胸に私は寝床に入っていった。



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