豪炎寺くんは涙を裾で拭い、私を見上げた。潤んだ上目遣いが、男だってことを危うく忘れそうになる。私は豪炎寺くんの言葉を待った。人生相談なんてされたこと今までなかったし、今現在の豪炎寺くんを見れば大きな問題を抱えているのは明白である。手に汗握る私は緊張して豪炎寺くんのピンク色に染められた柔らかそうな唇が動くのを見た。


「名字、俺の、友達になってくれないか」


豪炎寺くんはそう口にして視線を下に反らした。なんとも恥ずかしそうだった。そりゃ、なんだかやけに初々しいセリフではあった。それでももっと凄まじい人生相談を予想していたから、そんなの可愛いもんだろう。というか、それは人生相談なのか。そんな疑問も吹き飛んだ私がこっくり頷いたのは、豪炎寺くん
に名前を呼ばれたことが嬉しかったからだ。


「ありがとう」


希望に満ちた瞳で見上げられれば、先程とはまた違った感情が湧いてくる。細められた目は私を信頼してくれていた。
しかし、直後の一言に私は背負ったものの重大性に気づいたのだった。


「女装癖のこと言ったの、お前が初めてだ」


「よろしくな」差し出された右手を苦笑いで握り返した。まっすぐな豪炎寺くんの目を気づかれない程度に反らしている自分は、これからの生活にいくらかの不安があったから。豪炎寺くんの悩みを一身に背負った私は、それを支えきれるかわからない。女の子らしからぬ握力に膝が震えた。


あ。豪炎寺くんは男だった。



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