「お世話になっても、いいですか」
そういきなり聞かれた時は驚いたが、やっと通じ合えたことが嬉しくて顔が自然に綻んだ。
「これから、よろしくな」 「はい、ありがとうございます…!」 「じゃあ行くか」
名前が笑って頷いてから立ち上がった。俺の家に向かっている時、名前は一歩下がって着いてきていてマントをきゅっと握っていた。そんな仕草も春奈に似ている。 性格はかなり違うが。
名前は俺の家の前で感嘆の声を洩らした。
「やっぱり、すごく大きいですね」 「俺も初めてきた時はそう思った」
俺は名前をまた俺の部屋に入れた。名前は周りをきょろきょろ見渡して言った。
「ここはきどうさんの部屋ですか?」 「そうだ」 「やっぱり、本当、とっても広いですね!」
名前は笑顔から一転、表情に翳りを見せた。
「自分の部屋かぁ、憧れるなぁ」 「空き部屋ならある、名前の部屋作るか」 「本当ですか!」
パッと笑顔になった名前に俺は「あぁ」と言って、廊下に出た。俺の後を名前がぴょんぴょん飛び跳ねるように着いてきた。よほど嬉しいのだろう。 俺まで嬉しく思うほどだ。
「ここなんかどうだ」
俺は俺の部屋の隣の部屋の扉を開けた。
「あんまりものは置いていないが…」「ベッドだ!きどうさん!ベッドだ!!」
名前は興奮気味に俺の言葉を遮ってベッドに向かって走っていった。そのままダイブでもするのかと思ったら、飛び込む寸前で思い留まったようでベッドの隣でピタッと止まった。
「きどうさぁん」 「ど、どうした」
いきなり涙声を出した名前に俺は思わずたじろいだ。
「私、こんな汚い格好だから……」
名前は自分の灰色のトレーナーの裾を掴み俯いて小さな声で言った。そんな姿を見て俺は胸を突かれた。そしてある事を思いついた。
「着替えるか、俺も汗かいたしな、ちょっと来い」 「え、でもっ」 「これからここで過ごすんだから準備しなくちゃしょうがないだろう」
俺は名前の手を引いて部屋を飛び出した。 それから一人の女中に名前を差し出した。
「こいつの見繕いをお願いしてもいいか?」
女中は不思議そうな顔をしたが承諾してくれた。 それもそうだ。 友人といえど普通こんな事は頼まないからな。
だから俺は今から父さんに交渉しに行く。
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