きどうさんは幼い頃に両親を亡くしていた。それを知った時これまでのきどうさんの言葉が深い意味を持って重いものになった気がした。
そしてきどうさんはお兄ちゃんだった。なんとなく、運命的なものを感じた時、夢の中でお母さんが言った事が頭を過った。
「あなたを信じてくれた人をあなたも信じなさい、そうすれば必ずわかりあえるわ」
だから、私はきどうさんを信じて、今、自分の事を話そうとしている。きどうさんが「勿論だ」と答えてからたどたどしく口を開いた。
「私は家が貧乏で……、お父さんがパチンコとかしたのが原因、だからお母さんはお兄ちゃんの受験のために家を出ていったんです」 「お前を置いてか?」 「お金の問題があったからです」 「……それからどうなったんだ」 「私はお父さんと二人で暮らして……、そしたらお父さんが借金し始めたんです、その時の借金取りが怖くて怖くて……」 「ゆっくりでいい」
トラウマを思い出して震え出した私を見てきどうさんが背中を撫でてくれた。
「それで、私学校にも行かなくなって……、昨日家が差し押さえられたんです」 「辛かったな」
きどうさんが私の頭を撫でた。その瞬間、私の目から熱い物が溢れ出た。私は目を擦ったが、それを止める事が出来なかった。
「落ち着くまで泣け、我慢は良くない」 「あっ、ありがとう、ござっ、います」
やっと涙が底をついた。全て出し切った気がする。私が泣いている時ずっと背中とか頭とかを撫でてくれた。その時私は自然とお兄ちゃんを思い出していた。
「落ち着いたか?」
私はこくりと頷いた。
「よかった」 「きどうさんに全部話して楽になりました、本当にありがとうございます」 「礼を言われるような事じゃない」 「そんなこと、ないです」
目を一回擦り、私は深呼吸をした。
「きどうさん」 「なんだ?」
完全に涙声だったけれど、私はしっかりときどうさんに向けて言った。
「お世話になっても、いいですか?」
すると、きどうさんは一瞬びっくりした表情になった後、ふんわり優しく微笑んだ。ゴーグルの下の目もきっと弧を描いていると思えた。
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