死のうとしていた私はドレッドヘアーをポニーテールにしてゴーグルをかけ真っ赤なマントを纏っている私と同じくらいの個性的な男の子に助けられた。 正直、迷惑だった。 死なせてほしかった。 私には帰るところもないのだから。これからどうしろというんだ。あてもなく突っ走っているとしか思えない。 真っ赤なマントが翻り、ドレッドヘアーがぽよんぽよんと走る度揺れている。それが不愉快極まりない。かじかんでいた手は少し暖かくなったが身体の寒気がまだ拭いきれなかった。 走っていて思うのは、なんとなく世界が変わっている気がすること。すべてを達観しているような、そんな感じ。 ていうか、これからどうなるんだろう、私。 と思っていると、突然前を突っ走っていたゴーグルの人がいきなり止まったので私はその背中にぶつかってしまった。
「わっ、すいません」 「すまん、俺がいきなり止まったのが悪い」
ぶつけた頭を押さえつつ、前を見ると、そこにはとてもとても大きなお屋敷があった。
「わぁ、おっきい…」 「俺の家だ」
私は彼の言葉に心底驚いた。私の家とはまさに雲泥の差。そう思うと同時に、この人は私と全然違った恵まれた人生を歩んできたんだと悟ると、真っ黒な心にまたズシンと何かが覆い被さった。 彼は大きな門扉をガラガラと音を立てながら開き私を招き入れた。私は一応「お邪魔します」と言っておいた。門扉から玄関まで数メーターあり両側には庭が広がっていた。彼がこれまた大きな玄関の扉を開けると、数十名の女中さんが並んでいた。「お帰りなさいませ」と声を揃えていう女中さんたちと家のだだっぴろさに私は圧倒され何も言えなかった。この玄関の方が私の家より断然広い。
「そちらの方は?」
女中さんの一人がそうゴーグルの人に聞くと、ゴーグルの人は一瞬口をつぐみ小さめの声で「友人だ」と言った。この人は優しい人だ。でも、その優しさが私にはとても迷惑なのだ。 私がつっ立ったままでいるとゴーグルの人に手首を引かれた。靴を脱がないまま廊下を歩くのは初めてだったのと天井のシャンデリアで、少し心が踊った。 ゴーグルの人は私を階段を上がってすぐの部屋に入れ「ソファーに座ってろ」と言ってエアコンを付けた後部屋を出ていった。広くて綺麗な部屋だった。大きな本棚には数多くの本が並んでいた。辞典や図鑑、参考書もあれば小説もたくさんあった。豪華なソファーの前には控えめなデザインのガラスのテーブル、その前には巨大な薄型液晶テレビもある。一体私の家のテレビの何十倍あるんだろう。まずブラウン管だから比べる土俵も違うか。上品なチェストの上にある高級そうな壺。それと綺麗に片付いた勉強机があった。多分この部屋はあの人の部屋なのだろう。いろいろ探り回るのは卑しいと思い、言われた通りソファーに座った。想像以上にふかふかで、背もたれに完全に身体を委ねると全身の疲労が吸い取られていくようだった。 私は瞼をゆっくりと閉じると、眠りに落ちていった。
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