「ただいま!!」
俺がものすごい勢いで玄関の扉を開けると、ちょうど近くにいた女中が俺の形相に驚いた顔をしつつも「おかえりなさいませ。お昼頃にご友人がいらっしゃいましたよ」と言った。やはり俺より先についていたようだ。俺は廊下を走り抜け階段を駆け上がった。 不動め。名前に何かしたらただじゃ済まないからな、と思ったその時だった。
「ぎゃああああ!」
他でもない名前の声、悲鳴が俺の部屋から聞こえてきたのである。さては不動の奴!頭に血が上り身体中が沸騰したような感覚にとらわれるのを感じて、無我夢中でドアを開けた。
「名前!!」
俺は目の前の光景に拍子抜けした。不動と名前がテレビを見ながらソファーでくつろいでいたからだ。二人とも俺のただならぬ雰囲気に多少驚きながらもこちらを向いていた。俺と二人の温度差に肩の力が抜けたような気がしたが、ただひとつ、不動が名前に抱きつかれているのだけは気持ちの整理ができなかった。
「鬼道さん!おかえりなさい!」 「ひっさしぶりだな、鬼道くん」 「ただいま。不動、ちょっとこい」 「はあー?今名前ちゃんと映画見てんだけどー」 「あっ!!くる!絶対くる!鬼道さあああん!たすけてええええ!!」
不動の相変わらず憎たらしい態度と声に苛立ちながらも、名前の怯えように何事かとそばに駆け寄ると、名前が、俺の制服を引っ張って俺がソファーに腰を落とすのとほぼ同時くらいに、俺に抱きついてきた。
「ぎゃあああ!やっぱりきたああ!」
テレビの液晶画面では無駄にリアルなゾンビと人が戦っていた。名前はこういうのが苦手なようだ。すぐ隣で涙目になっている。そんなことより、抱きつかれている。抱きつくと怖さが半減でもするのだろうか。
「なんでこんなの見てるんだ」 「暇だから」 「うぎゃああああ!」 「名前も怖いなら見なきゃいいだろう」 「でも続きが気になるんです・・・・・・」 「怖いものみたさってやつ?」 「はぁ・・・・・・、わからん」
不動になにかガツンと言いたかったものだったが、すぐ横で名前が俺の腕にしがみついているのを見たら、これに乗じるのもまあいいだろうと自分の中で決めてしまっていた。 結局、名前はホラー映画を3本見ることになったらしい。見終わった後のすっかり疲れきった顔は、なんだか初めて名前と会った日のことをすこし思い出させた。
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