私は今商店街の真ん中にいる。
公園でブランコをこいだりシーソーにひとり座ってみたり(つまらない)いろんな暇潰しをした後やる事もないのでいろんなお店を行き来しひやかしていたのだ。ポシェットを開けてみたらお財布(他にもハンカチとかティッシュとか携帯電話までも)が入っていたけれど、使おうとは思いもしなかった。お世話になっているだけで私は十分だったのだ。私のためにここまでしてくれるなんて、感謝する他なかった。

ほとんど全てのお店に出入りして商店街を歩き尽くしたころ、そう、どこか違う場所へと足を運ぼうと思い立った時だった。私は前方によく見知った人の姿を目にとめた。

鬼道さんだ。

私は建物の影に隠れた。壁から明るい女の人の声が聞こえる。なんでもメイドさんが迎え入れてくれる喫茶店らしい。私はお店の前でそう聞いたけど入ろうとは思わなかった。多分、メイドさんだったら女中さんの方がよかったからだろう。
そんなことは、今はどうだっていい。何故私が物影に隠れたか、それには理由がある。

鬼道さんが隣に女の子を連れて歩いていたのだ。

頭に赤い眼鏡をかけたショートカットの活発そうな女の子は楽しそうに鬼道さん話しかけ、鬼道さんもそれに応えるように頷いているようだった。
とても嬉しそうに見えた。
私は鬼道さんとその女の子が真横を通りすぎて背中が見えなくなるまで、何も考える事ができなかった。息をしていないみたいだった。なんでだろう、とてつもなくショックだった。私はどうにもこうにも早くこの場から離れてしまおうと思った。

ずいぶん遠くまできた。私は鉄塔広場にいる。夕焼けこやけの真っ赤な空は、どこかすっぱく感じてトマトを思い出す。胸がつん、として苦しくなる。私はベンチに座った。あんまり帰りたくないなあ。そう思うのは、さっきの鬼道さんと女の子が脳裏に浮かんできてきている時で、きゅっと胃が痛くなった。足元の石ころを蹴る。私は帰るタイミングを図り兼ねていた。自分の気持ちと、お父様や女中さんに心配をかけていたらという気かがりが葛藤している。まんまるい陽はもう半分くらいしか見えない。あと少しで夕日は姿を消してしまうだろう。そうしたら、帰ろうか。そうしよう。
私は夕日を見守りながら、商店街の通りで見た鬼道さんの穏やかな顔を思い出した。
これまでに、鬼道さんは私にあんな表情を向けてくれた事があっただろうか。
急にそういう事を思ってしまって言い様のない不安に駆られた。鬼道さんは、私を救ってくれた優しい人だ。そうだとわかっているのに、嫌な方へと考えが働いていく。
私は鬼道さんにとって迷惑な存在じゃないのか?
そう思った時、今までとは訳が違う、ぐっと激しい痛みが胸に走った。私は白いブラウスにしわが出来てしまうくらい強くそこを握りしめた。
辺りが暗くなった。夕日が沈んだ。気持ちも沈んだままベンチから立って振り返えると、どこかで見覚えのある男の子が立っていた。


「久しぶりだな!」


屈託のない笑顔でサッカーボールを私に向かって蹴った。


「サッカーやろうぜ!」







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