お父様から「外に遊びにいってきなさい」と言われた。女中さんも「それがいいですわ」とかしこまった口調で言う。そう、私はここにお世話になってからただの一度も外に出ていないのだ。
本当にひきこもった時期もあったけれど今はそんな欝屈した気持ちは全くなく、むしろこんな綺麗で大きな家なのだからずっといたいと思ってしまう。元々インドア気質なのだろう。それでもやっぱり「出かけてきなさい」と言われれば、そうしなくてはならないような気がしたし、あの河川敷を頭に浮かべたら急にものすごく行きたくなった。

きどうさんが帰ってきたら、一緒に遊びにいってくれるかな。そういう希望を持つと勉強に精が出る。出過ぎるとご飯を食べるのも忘れてしまう事がたまにあるから注意しなくてはいけないけど。

私は一旦シャーペンを置いて伸びをした。凝り固まった上半身の緊張がほぐれる。そうするとほんの少し集中が途切れてしまいきどうさんの机に珍しく置いてあったモスグリーンのノートが気になった。手に取ると、真っ先に目がいったのは名前のところだった。


「鬼道、有人」


こういう字書くんだ、きどうさんは鬼道さんだった。鬼道さんかぁ、かっこいいなぁ。そう、かっこいいのだ、鬼道さんは。鬼道さんはいつも厳格で優しいから、かっこいい。ゴーグルとか髪型とかマントも最初はおかしいなと思っていたけど今では鬼道さんにとってなくてはならないもののように感じていた。特にゴーグルは大切なもののようだ。私と二人の時には外してもらうようにしてもらっているけれど、本当によかったんだろうかと思う事もあった。というのも、鬼道さんの目を見ると、私はすごくどきどきするのだ。なんでかは、多分かっこいいからだと思うのだけど、胸の高鳴りが異常な時が多々ある。こうして鬼道さんを思い浮かべている時も、どきどきしてしまう。


「頭冷やそ」


私はノートを置いて部屋を出た。玄関に向かうと真新しい靴が用意されていた。お父様に感謝しながら履いていると、女中さんがやってきた。


「気をつけてね」
「はい!いってきます!」
「あっ、ちょっと待って」


すると女中さんは一度どこかに行って、そしてすぐに戻ってきた。手には可愛らしいポシェット。それを私の肩にかけてくれた。


「ありがとうございます」
「いいえ、じゃあいってらっしゃいね」
「いってきます!」


女中さんに手を振って私は髪を振り乱し駆け出した。







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