朝、目が覚めて下へと降りると俺は思わず目を擦る事になった。まだ夢でも見ているのだろうか。俺の前にはいつかの女中服に身を包んだ名前が爽やかな笑顔で立っている。


「おはようございます!」
「お、おはよう」


白いエプロンが眩しい。朝から刺激が強い。頬に帯びた熱を拭い去るように顔を洗った。
朝こなす諸々の事が終わるとちょうど家を出る時間になる。その時にテーブルに置いてある弁当を鞄に入れ……、って、無い。弁当が無い。周りを見渡してもどこにも無かった。まあ今日は購買でいいか、そう思っていると、とことこと危なっかしい足音が玄関まで駆けつけてきた。名前だ。


「きどうさん、お弁当!」


名前に青い巾着に入った弁当を差し出された。まさか、これって。


「お前が作ってくれたのか?」
「はい!」


にこにこと満面の笑みで微笑む名前。料理とか、作れたのか。名前は結構器用な奴のようだ。受け取る際に口元がふにゃっと曲がってしまった気がした。そう、俺は相当嬉しがっている。我ながら恥ずかしい奴だ。


「ありがとう。……じゃあな」
「いってらっしゃい!きどうさん!」


非常に軽い足取りで通学路を歩いていくと、豪炎寺に会った。「おはよう」「……おはよう」軽く挨拶すると、豪炎寺がどこか訝しげな顔をしていた。


「鬼道、お前何か良い事でもあったのか?」
「は」


どうやら、俺の顔や声から機嫌の良さが滲み出ているらしかった。恥ずかしい事この上なかった。気持ちの悪いものを見ているような豪炎寺の顔が忘れられない。

時は過ぎ、昼休み。今のところ名前が作ってくれた弁当のおかげで俺は気分上々の時を送っていた。しかしその弁当の蓋を開けると、その幸せな時が一気に消滅した。いや、幸せと言えば幸せなのだが、こんなの、円堂達には死んでも見せられない。二段目のおかず部分はとても旨そうだし良いのだが、一段目のご飯が問題だった。名前に問いたい。

何故、米に俺の顔を描いた?

説明をすると文字通り、ご飯にはそぼろやら海苔やらいろんな食材を使った俺の顔が描かれていた。流石名前。本当に器用だ。ゴーグルの辺りなんて細かすぎてよくわからない。……感心している場合じゃないが、豪炎寺に不審な眼差しを向けられる身にもなってくれ。逃避したくなる気持ちもわかるだろう?


「鬼道……?」
「なんでもない」
「きど」
「なんでもない」
「なんで弁当隠してる」
「隠してない。ちょうど前に教科書が立っているだけだ」
「あ、円堂おかえり」
「えっ」
「ただいま!ってうわー!!鬼道の弁当スゲーッ!!」
「見るなあああぁ」


なんてこった!トイレから帰ってきた円堂に見られてしまった。それからは正に後の祭りといったところで、円堂の叫びでクラス中に弁当の件が知れ渡り、豪炎寺の目が点になり、木野から春奈にも伝わったようで、いち早く春奈が俺のところへ駆けつけてきた。そして弁当をパシャパシャカメラに納めて言うんだ。


「お兄ちゃん詳しく説明して!」


もうなんでもいいから、目の前の卵焼きが食べたくなった。







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