こんな時に限って長引いた部活がようやく終わり学校を発つ頃にはもう空は紅く焼けていた。俺は通学路を超高速で走り抜ける。当然急ぐ理由は決まっている。

五六時間目くらいには、立て続けに届くメールにいい加減嫌気が差してもう携帯の電源を切っていた。佐久間からの「お前同棲してんの!?」というメールを皮切りに、帝国のサッカー部や知り合いを中心にそれと同じような内容のメールが大量に届いた。佐久間が言いふらしたのだろう。全くとんだ迷惑だ。

名前は大丈夫だろうか。

俺は走るスピードをさらに速めた。



靴を脱ぎ捨てて階段を駆け上がり部屋のドアを勢い良く開けた時、俺の目の前に信じがたい光景が飛び込んできた。その時、全身が総毛立ったような気がした。額に青筋が立った気さえする。

佐久間が名前を抱きしめていたのである。


「佐久間今すぐ名前から離れないと皇帝ペンギン3号食らわすぞ!」
「うわ鬼道!い、いいじゃん別に!付き合ってるわけでもないんだし!それに3号やるには三人必要だし……」
「最悪俺一人でも可能だ。言い訳は聞かん。早くどけ!」
「ひいぃ!」


今一度ピシャリと言い放てば、やっと佐久間は名前から身を引いた。こいつは俺のゴーグルの下の目がどうなっているか想像がつくのだろう。勿論、思い切り睨みつけている。佐久間の奴、なんて事してくれるんだ。怒りに満ちていると、俺の方に名前が寄ってきた。


「きどうさん、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」


ただ一言、ただいま、というそれだけで名前は笑顔になった。名前に獣耳としっぽが見えた気がした。愛犬によく懐かれた飼い主のような気分だ。


「あんまり怒っちゃだめですよ」
「……すまん」


懐かれたのはいいのだが、最近良くも悪くも、言うようになったと思う。しかも、俺が窮屈になって脱いだ上着を見て「ハンガーにかけてクローゼットに入れときますね」なんて言う。今でこそ服は普段着だが立派な女中に思えてくる。感心していると、佐久間と源田の耳打ちが聞こえてくる。


「なに今の!?夫婦じゃね!?やばくね!?」
「流石に俺も思った」
「お前ら全部聞こえてるぞ」


やってられん。こいつら(主に佐久間)を相手にすると精神が擦り減る。名前をチラリと見ると少しだけ頬が赤くなっている。俺も赤くならないわけがなかった。俺はさもそんな事なぞ気のせいみたいに話題を変えた。


「で、お前ら何しにきたんだ」
「モンハンやろうぜ!」


PSPを取り出して満面の笑みをする佐久間とちゃっかりもうウォーミングアップを始めている源田に、俺は脱力した。文句を言う気力も無く俺もPSPを出してきて電源をつけた。


「モンハンって何ですか?」


そうか。名前は知らないだろうな。大変な生活を強いられてきたのだから。佐久間はハイテンションでモンハンについて説明している時、そんな事を思って切なくなる。


「俺、2台持ちなんだ!名前ちゃんも一緒にやろうぜ!」
「わーい!ありがとうございます!」


ナイス佐久間。名前の笑顔を見る事ができたので、先ほどの佐久間の悪業も少しだけなら許せる気がした。








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