ピンポーン、ガチャ、バターン。 そんな音が聞こえた、昼下がり。私はきどうさんの机で勉強中。ものすごく集中していると自然と気にならないものだった。お客さんでも来たのかな、それとも宅急便かな、と二秒くらい考えただけだ。
しかし、それからほんの数分後、私は反応せざるを得なくなる。いきなりドアが二人の男の子によって開けられたからである。
「お邪魔ー……って、えぇ!」 「おぉ」
私の手からシャーペンが机に落ちコツンと音を立てた。「どちら様ですか」と私が訊ねる前に、ご丁寧にお二方から自己紹介をされた。
「俺、佐久間次郎!」 「俺は源田幸次郎だ」 「俺もこいつも鬼道の友達なんだけど……あんた誰?」
お二方はきどうさんのお友達だった。眼帯をして色黒で薄い水色がかった長髪の方が佐久間さんで茶色の髪をつんつん立てて背が高めな方が源田さん。次郎がかぶっていてちょっと笑いそうになった。しかし、お二方はきどうさんのご友人だ。失礼のないようにしなければ。私はきどうさんの椅子から立ち、お二方にお辞儀をした。
「きどうさんにお世話になっている居候の名字名前と申します」
私が頭を上げると、源田さんは何故か卒倒していて、佐久間さんは携帯を取り出して何かに奮闘していた。
「大スキャンダルだ!鬼道が同棲してるぞ!」 「ち、違いますよ!」
私が佐久間さんに誤解を解こうとしてもなかなか取り合ってくれなかった。ようやく意識が戻った源田さんには私の言う事が通じたようで、佐久間さんの誤解も晴らしてくれた。
「そんでそんでどこまでいった!?」 「だから名字さんは鬼道とはそういう関係じゃないって言ってるだろ」 「だって一緒に住んでたらなんかあると思うじゃん!?つか名前で呼んじゃっていい?」 「どうぞどうぞ」 「いい子だな名字さん……」 「そんな、私なんて……」 「うわー、名前ちゃん謙虚だし可愛いし、めっちゃうらやましいんだけど。鬼道何あいつ、どこで俺等と差つけたよ」 「男子校と共学の差?」 「あー!まじにくいわー!」
佐久間さんはソファーにドカンと座って頭をぐしゃぐしゃにかきむしった。男子校かぁ、ちょっと面白そうだけどなんか大変そうだ。雷門は共学だから、違う学校のお友達なんだな。源田さんが一人分のソファーに座ると、空いている隣をポンポン叩きながら「ここ座りなよ!」と佐久間さんに言われたので、私はお言葉に甘える事にした。「失礼します」と言って座ると「やっぱりいい子だ……」と源田さんが遠い目をして呟いた。そんなに褒められると照れるなぁ。私は少し頬に熱を感じて俯くと、佐久間さんにいち早く気付かれた。
「あー!赤くなってる!可愛いー」 「そんなことないです」 「そんなことあるよー!」
そんな不毛な言い争いからまた質問責めに変わっていく。「鬼道と付き合ってないの?」「鬼道と一緒に寝たりした?」「鬼道とお風呂はいったりした?」そんなような事をいろいろ聞かれて、それぞれ私は想像してしまったり、質問の中には本当にあった事も含まれていたから、あの夜を思い出したりもして更に顔が熱くなる。きどうさんと本当の絆が生まれた大切なあの日の夜は永遠に私の脳裏に焼き付いている事だろう。
佐久間さんの質問責めはまだまだ続く。
「何歳?」 「十四歳です」 「俺等と同じだー!」 「好きなタイプは?」 「えっ、あ、あの、えっと」 「俺みたいなのは!?」 「えっ、あ、かっこいいと、思います」 「よっしゃー!俺まじ嬉しいわ!」 「お世辞だお世辞」 「お世辞でもありがとう!名前ちゃーん!」 「わわわ!」 「あっ、馬鹿!」
質問責めの最後の最後、私は佐久間さんに抱きしめられた。共学のきどうさんより、はるかに男子校に通う佐久間さんの方がスキンシップが激しくてびっくりした。 私は心を落ち着かせようとなんとなく窓の外を見た。視界には申し訳なさそうにしている源田さんも入っていた。窓の外は紅く染まっていた。もうそんな時間か、としみじみ思っていると、玄関の扉が開かれた音が聞こえた。それから勢いよく階段を駆け上がる音。それがだんだん大きくなってくる。
きどうさんが帰ってきた!
部屋のドアが開いた瞬間、私はきどうさんに「おかえりなさい」と言った。 しかし、きどうさんは「ただいま」とは言ってくれなかった。
きどうさんは鬼の形相で「佐久間今すぐ名前から離れないと皇帝ペンギン3号食らわすぞ!」と言うのであった。
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