「名前……、すごいな」


隣ではえっへん、と言わんばかりの表情をしている名前がいる。並び連ねる赤丸たちに、俺は驚くばかりだった。名前は長い間学校には行っていない。だから当然俺は名前が間違えだらけの問題を提出してくるものと思っていた。名前に勉強を教えてやろうと思っていた。俄然手応えが無かったから全く拍子抜けした。


「はなまる付けてください!」
「あぁ、うん」


くるくると花丸を描く。きゅっきゅ、とペンが鳴る。正解するのは全然いい事なのだが、いまいち腑に落ちない。


「名前は、家で勉強してたのか?」
「してませんでした!」


そんな誇らしげに言われても困るんだが。しかし、優等生の子を持つ親のような気分にだんだんとなってくると、気持ち良く思ってくるようになった。


「きどうさん!私!」
「何だ」


丸付けが一定のリズムを持って進んでいたその時、名前は腰に両手を当てて宣言した。


「特待生になって雷門に入ります!」


手が、一定のリズムが、止まった。


「本当か」
「はい!絶対絶対入ります!」


これなら、名前なら、本当に狙えるかもしれない。名前が雷門に通ってくれるなら、俺としても嬉しい。


「頑張れよ」
「はい!」


これからどう名前をサポートしていこうか考えながらまた丸付けを進めていっている時、名前が俺をじーっと見つめている事に気付いた。何だ何だ。あまりにも熱い視線に心が乱されそうになった。


「やっぱり、ゴーグルないきどうさんはかっこいいですね〜」
「は!」


しみじみと唸るように言った名前に思わず俺は大きな声を出した。しまった、名前がまた怯えてしまう。すると、どうだ。名前は全然微動だにしていないではないか。


「ゴーグルないと怖さも少しだけ減ります」
「少しか」
「かっこよさは倍増しますよ!」
「もうお前は黙ってくれ」


そう言うと、名前は口を尖らせた。「一つ言っていいか」名前はうんともすんとも言わない。「もう喋っていい」「なんですかきどうさん!」


「なんでゴーグルかけてる」
「これかけてると、集中できるんですよね!」


だからこんなに正解率がいいのだろうか。


「それならいいんだが」


受験勉強の手助けにもなるだろうし。


「お前の顔が見れなくなる」


名前が今どんな顔をしているのかは、見ていないからわからない。見てもどうせゴーグルでわからない。だが、息を呑む音が俺の耳にはしっかりと届いていた。


「は、外します!きどうさんの前では絶対外します!」


ガバッとゴーグルを取るのが横目で伺えた。


「お返しいたします」


差し出されたゴーグルを受け取ると、置き場に困った。いつもかけていたものだから。とりあえず、俺は机の引き出しに丁寧にしまう事にした。


「それ、大切なものなんですか?」
「……まあな」


その時は名前の事は考えていなかった。俺は総帥の事が頭の中にあった。







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