今日は部活がミーティングだけだったため早めに学校が終わった。名前の事が心配でしょうがなかったから好都合である。俺は皆より一足早く帰路に就いた。

しかし、今日はどうにも調子が悪かったな……。宿題は忘れる、授業中に筆箱を落として中身をぶちまける、弁当食べてる時も箸を落とす……。それにつけても今日はミーティングだけで本当によかったと思う。こんな状態でプレイしたら、間違いなく豪炎寺が一発腹にでもシュート決めてくるだろう。今日の一連の俺の失態を見ていた豪炎寺のあの何とも言い難い眼差しを忘れられない。それくらい俺が異常だったんだろうか。まあ、俺だって人の子だ。たまの失敗くらい見逃してほしい。昨日は大変だったんだからな。

そんな事を思いながら帰宅し、玄関の扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、女中服に身を包んだ名前だった。俺は柄にもなく大口を開けてその姿に驚いた。


「なっ…!名前!?」
「あ!おかえりなさい!鬼道さん!」
「た、ただいま……!?」


名前は女中の、いやよくよく見ると女中の着ている物とは全く別物の物を着ていた。スカート丈やあしらわれているフリル、靴下だって何故か膝上まで伸びるもので、どこをとっても全然違った。俺は帝国時代のいつかに戦った、シュウヨウなんとかとかいう異質な趣味を持った学校のマネージャーがこんな格好をしていたのを思い出していた。

とにもかくにも!
なんでこうもスカートが短いんだ!?


「な、な、なんて格好を……!」
「女中さんに着せられちゃったんです」


それから名前は「最初は恥ずかしかったんですけど、慣れちゃいました」とけろりと笑顔で言った。そんな事を言われたら変に気にしているこっちが恥ずかしくなってきた。そんな感情を振りほどこうと廊下を闊歩するも、頬に触れる風が熱を覚ます気配は毛頭なかった。一歩後ろを歩く名前にどうか見られてませんように。



俺と名前は二階に上がり俺の部屋のソファーに座ってくつろいでいた。名前は今日こなした仕事について嬉しそうに話している。
「女中さんとお昼ご飯作ったんですよ!」
「あと大量の洗濯物干したり……」
「お掃除もしました!ほんっと広くて大変でした!」
それから思い起こしたように「そういえば、お父様にお父さんの事いっぱい聞かれたなぁ」と言い一瞬だけ悲しげな表情見せた。しかしすぐに「なんだか紛らわしいですね!」と先ほどの笑顔に変わりまた話題は元に戻った。その健気さになんだか少し胸が痛くなった。
一通り話し終わるも尚興奮気味な名前に「御苦労様」と労うと「でも楽しかったです!」と返ってきた。名前の満面の笑みは本当に楽しかったのだという事を証明していた。俺も心が晴れ晴れして自然と頬が緩んだ気がした。しかし、本当に目のやり場に困る。首筋から鎖骨にかけての白さにどきりとして俺は視線を落とすと、今度はスカートと長い黒い靴下の間で露になった太ももが目に入ってしまってまた心臓が跳ねた。
また名前が話し続ける中、俺は終始俯いていると突然ドアがノックされた。それから響いた声に俺は肝を冷した。やけに重低音に磨きをかけた声だったからだ。


「有人、話がある」
「今行きます!」


名前に「すまん、名前。ちょっと行ってくる」と告げて俺は部屋を出た。「いってらっしゃい」少し寂しげな名前の声が背中に当たった。帰ってきてから俺も存分に相手をしてやろうと思った。俺も、話したいしな。
部屋のドアを開けると父さんはもう後ろ姿になっていた。静かに着いていくと父さんの書斎に足を踏み入れる事になった。父さんは大きな革製の椅子に腰を下ろすと重々しく口を開いた。


「名前の、お父さんについてなんだが……」
「はい」


緊迫した雰囲気に暗い声色。直感的に俺は嫌な予感を感じ取っていた。


「名前のお父さんが行方不明なんだ」
「え……っ」
「名前のお母さんのところにも連絡してみたんだが、全く音沙汰無いそうだ」
「あっ、名前のお母さんはなんて……」
「あぁ、ここに住まわせる事か?快く承諾なさってくれたぞ」
「よかった……!」


俺はホッと胸を撫で下ろしたが問題は全く解決してはいない。俺は名前がここにいられる事だけが嬉しく感じてしまった自分を恥じた。名前は悲しいままなのに。


「だが、心配はいらん。必ずや見つけ出す」


父さんは目に炎を灯して低く言った。俺はその目に心を煽られたように突き動かされた想いを口にした。


「僕に何かできる事はないですか!」


と言って返ってきたのは、「有人は名前の傍にいてやりなさい」というもので。俺はそれを耳にした瞬間、なぜかみるみる内に顔が熱を帯びていった。


「ははは!有人は本当にわかりやすいなぁ!」
「かっ、からかうのはやめてください!」
「すまんすまん」


俺もむきになってついつい声を荒げてしまう。父さんは何を勘違いしているんだ、全く。未だ笑い続ける父さんに俺はもう呆れ果てて書斎を後にしようとした時、父さんが思い出したように俺の背中に一言言った。「じゃあ、有人、名前を説得してくれないか?」
俺は振り返り言った。「説得?」


「そうだ。名前を雷門に通わせるんだ」


俺は名前が不登校だった事を思い出した。借金の取り立てが始まってからだと言っていた。言わずもがなそれは心の傷の所為だと言える。しかし今のままでは名前のためにはならない。俺は父さんの目を見て意を決して言った。


「はい!」







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