女中さんに体を揺すられて起きた頃には、もう隣にきどうさんはいなかった。 うっすらきどうさんからおはようと言われた気がするけれど、夢だったのか現実だったのかよく覚えていない。 顔を洗って、うがいをして、朝食をお父様と一緒に食べて、歯を磨いた。
やることがなくなった。
なんできどうさんはいないんだろう。
「有人様は学校に行かれましたよ」 「ああ!」
そうか、学校か。 ガッコウ、かあ……。
部屋に戻る際の廊下で女中さんは私に話しかけてきた。 私はこの女中さんとしか会話したことがない。 他の大勢の女中さん達とは挨拶を交わすくらいだ。 しかし、この女中さんはまるで執事みたいに面倒を見てくれる。 今も、髪に櫛を入れられている。 どうやら話しかけたのはボサボサの髪を梳かすためだったようだ。
「名前ちゃん、学校は?」 「大分前から行ってません」 「あら、そうなの」
それからしばらく何も言葉を交わさずに、女中さんは私の髪を梳かしていた。 女中さんの手が私の頭にぽん、と置かれた。
「終わり!まあ、難しいことは有人様がお帰りになられてから決めればいいわ」
裏表のない笑顔でそう言われて、私はとても救われた気がした。私も精一杯笑って「はい!」と返すと、女中さんは心底楽しそうにこう私に言った。
「もしお暇なら、名前ちゃんもお仕事一緒やらない?」
また、迷わずに「はい!」と答えると女中さんに衣装部屋に連れ込まれて、パジャマを脱がされた後とんでもない格好をさせられた。
……きどうさんに絶対見られたくない。
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