「……様ー、有人様ー!」


そんな声が耳に届いてきて俺は目覚めた。多分女中が階段の下から呼んでいるのだろう。わざわざ起こしてくれなくとも俺は自然と目が覚めるのにな。そう、我ながら寝起きは良い方なのだ。だが、今日は体が重かった。
そりゃそうだ。
昨日は少ししか寝れなかったんだからな。
あぁ、思い出すと耳まで熱くなってしまう。俺は頭を強く振った。……名前が俺から離れたのが夜中の三時半くらいだとすると、約二時間半しか眠れていない事になる。
俺はいつも六時に起床するからな。


「有人様もう八時ですよー!」
「えっ」


俺は反射的にガバッと布団から飛び起きた。その拍子で隣の名前も目が覚めてしまったようだ。しかしまだ寝ぼけ眼を擦っている名前は夢の中にいると言えよう。俺は一方的に名前におはようと言って、枕元のゴーグルを掴み取り洗面所まで走って一通りの事を済ませて自室に駆け込んだ。壁に掛けてある時計に目をやると本当に八時だった。背筋がいよいよ凍った。俺は急いで制服に着替えてから髪を結いゴーグルを掛けて、エナメルバッグを引っ掴んで階段を駆け下りた。
「おはよう」「おはようございます」
女中から弁当を受け取ってから靴を履く。


「車飛ばしましょうか?」
「いや、いい、走っていく」


「いってらっしゃいませ」「いってきます」挨拶はいつでもどんなときでも欠かさない、それが鬼道家の流儀だ。

俺は全速力で通学路のアスファルトを蹴っていった。



チャイムと同時に教室に飛び込んだ。これほどまでにこの無駄に間延びした音に感謝した事はない。俺は自席に座って呼吸を整えるため深呼吸をした。


「おはよう!鬼道!」


駆け寄ってきた円堂はいつも通り元気が良い。俺も擦れ声で「おはよう」と返した。それから「今日は珍しくギリギリだったな!」と言われたが俺は曖昧に返事をした。隣の席の豪炎寺とも挨拶を交わす。豪炎寺は別段何も言わないながらも、やはり驚いているようだった。
俺が遅刻寸前なんて事はあり得ない事だからだ。
まあ、現実にそれが起こったという事はそれ相応の理由がある訳なのだ。



……名前は今どうしているだろう。







prev top next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -