私は女中さんに洋服がずらりと並んだ衣装部屋に連れ込まれた。ここもある程度広いのに壁一面がクローゼットになっていてそこにたくさんの洋服があった。男物も女物もあった。
このお家にはきどうさん以外に誰が住んでいるんだろう。きどうさんの養父さんと養母さんかな?


「これなんかどうかしら?」


女中さんにものすごく可愛らしい真っ白なワンピースを勧められた。一瞬で高そう、と思ってしまう貧乏人の思考回路が悲しい。というか、ワンピースなんて着るの初めてかもしれない。
だいたいお兄ちゃんのお下がりでスカート自体学校の制服くらいしか無いから。


「私にはちょっと似合わない気が……」
「いいから着てみなさい!」


女中さんに服を半ば無理矢理脱がされた。そしてさっきの純白のワンピースを着せられた。


「やっぱり、とっても似合うじゃない」


それから女中さんは私の髪を櫛で綺麗に梳かしてから私を鏡の前に立たせた。


「ほら、ね?似合ってるでしょう?」


鏡の中で私ではない私が立っていた。私は驚きを隠せず直立不動で鏡を見つめた。すると私を女中さんがクスリと笑った。


「そんな信じられないみたいな顔しないの」
「すいません……」


それから女中さんの視線が私の薄汚れた服に移った。


「これは洗濯機行きね、あなたが帰るまで頑張って乾かすわ」
「あ!」
「なにかしら?」


私はこれから住む事になったということを言わなきゃいけない気がした。だってこの女中さんは言わば先輩なのだから。


「あの!私、これからここに住むことになったんです!」
「えっ!」
「なので、これからよろしくお願いします!」
「あらまぁ!これは驚いたわ」


女中さんは目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。当然の事だと思う。それから女中さんはなにやらニヤニヤし始めた。


「さっき有人様に頼まれた時彼女さんなのかしらと思ったんだけど……、有人様やりますねぇ」
「ちょ……っ!!それはなにか勘違いをしています!」
「あら?そういう関係じゃないの?」
「違います!ちょっと事情がありまして……」
「訳アリってやつね」
「はい……」


女中さんはそれ以上私になにも聞かなかった。


「じゃっ、有人様のところに戻りましょうね、……えーと」
「名字名前です」
「じゃあ名前ちゃん、こちらへどうぞ」
「お洋服、ありがとうございました」


私は女中さんに連れられて厳かな雰囲気の扉の前に来た。


「ここは御主人様のお部屋よ、挨拶されるといいわ」
「ご主人様ということはきどうさんのお父さんということですか?」
「……そうなるわね」
「緊張します……」


私がそう言った時女中さんは私の手を握って緊張を取り払おうとしてくれた。


「頑張るのよ、名前ちゃん」
「……はい!」


どきどきしながらノックをすると「入っていいぞ」と低く威厳のある声がした。


「し、失礼します」
「名前!」


扉を開けるとそこには黒いVネックの服に着替えたきどうさんと、机を隔てた向こうの椅子に深く腰掛けて神妙な面持ちをしている男の人がいた。







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